第114χ Ψ高の玉の輿?!御曹司現る!(前編)@




夏休みもあっという間に過ぎて、高校二年生の三度目の二学期が始まった。この事に違和感がある人もいるだろうけれど、気にしてはいけない。二、三、二という並びがなんとなくしっくり来てムズムズしないくらいに思ってくれていたら嬉しい。

二学期早々のトップニュースは、うちのクラスに転校生がやって来るということだった。そのおかげで、やって来る転校生に対する話題で持ちきりとなっていた。

「転校生は男?女?」
「それが男だってよ。」

どうやら噂の転校生は男子らしい。この言葉を聞いた途端に、男子のテンションはだだ下がりし、逆に女子のテンションは急上昇中。思春期の学生なんてこんなものだ。なんとわかりやすいのだろうか。

しかし、実のところ私も少し楽しみにしていたりする。相手が男子だからという理由ではなく、転校生が日本を代表する財閥の御曹司の可能性があるからだ。

御曹司と聞くと性格に問題があるイメージを抱きがちだが、転校生がそうとは限らない。万が一性格に難ありだとしても関わらなければいいだけの話。
噂の彼が心のどこかで感じていた環境のマンネリ化を解消してくれることを大いに期待したい。

先生に紹介されて、転校生が入ってきた。
従者が引いたカーペットの上を優雅に歩く様に育ちの良さを窺い知ることができる。それと同時に転校生の片手には万札の束。御曹司という噂は間違いないようだ。

「えー...紹介します。才虎芽斗吏君です。」
「つーか才虎って...やっぱり!!」
「超セレブじゃんすげー!」

転校生の名を聞くなり、クラスがワッと盛り上がりをみせた。先生が静かにするよう制していると、転校生が口を開いた。

「俺様は才虎芽斗吏だ。最初に言っておくが貴様等庶民の雑草共と馴れ合うつもりはない。気安く話しかけるな。」

彼は何と期待を裏切らないのだろうか。
The・御曹司のテンプレのような言葉を全員に浴びせると、先程まで賑やかだったクラスが嘘のようにシンと静まり返った。

才虎くんはフンと鼻を鳴らせばそんなことはお構いないし、スタスタと高橋くんから買収して得た席に向かって歩いて行く。

「なァ...なんでウチなんかに転校してきたの?」

窪谷須くんが席に向かう才虎くんを呼び止め、問いかけた。

「確かに普通ならこんな薄汚い学校、一生関わらないだろう...理由がなきゃな...」

理由とはなんだろうか。
才虎くん自体には全く興味ないけれど、こんな不相応な場所に来たいと思えるほど彼をここまで動かした理由が気になる。

才虎くんが窪谷須くんにやれやれと呆れ顔を見せると、不意に手を伸ばして隣の席いる手をギュッと握りしめた。

「俺がここに来た理由はお前だ、照橋心美。前に街でお前を見かけて調べたんだ。」
「えっ?」
「気に入ったぞ。俺の女になれ。」

才虎くんの突拍子な一言に静まり返っていたクラス一同が揃えて驚嘆の声を上げた。
それも無理もない。気に入った女性がいるからとてわざわざ自身が一般の学校に通う必要なんてない。やはり一般人と御曹司では考え方が違うようだ。

「それと...もう一つ目的がある。」

才虎くんは再び教室をうろつき、ある場所でピタリと立ち止まった。

「平凡人子、お前だ。」

...は?





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