第112χ 俺達の夏休みはこれからだ! XA




実習がひと段落すると、次は学科試験の勉強のために私たちは教室へと場所を移した。

外が暑かったせいか、エアコンの効いた教室はまさに天国。身体に悪いとはわかっているけれど、この快感は夏の醍醐味だと思う。

エアコンの風に当たり、体の火照りを冷ましながら適当な席に着くと、先生から渡されたのは一枚のなんの変哲も無いプリント。
そこには学科試験に問われるだろう問題がずらずらと書かれていた。

早速テストということだろうか...交通ルールなんて今まで意識することがなかったから、いきなり答えられるわけがない。このテストは現状の実力を図るためのものだろう。

一通り目を通してみると然程難しい問題ではないことは理解することが出来た。頭に一通りの知識が入っていれば普通に解くことは可能だろう。少し日本語の解釈がしにくいところはあるけれど。

より正解に近いであろう答えを適当に選んで解答用紙を埋めてゆく。
段々集中力が高まってきたところで、突然バキッと何かが折れた音が室内に響き渡った。

音の位置から犯人は大体わかっている。窪谷須くんだ。
窪谷須くんが問題が解けないというストレスのあまり鉛筆をへし折ったのだ。

「...大丈夫か、亜蓮?」
「あ...ああ...」

海堂くんが心配そうに窪谷須くんを見つめている。実習の時には窪谷須くんが海藤くんを心配そうに見ていたけれど、今度は立場が逆転している。
こうなることは私も薄々は感じていたけれど、嫌な予感というものはなぜいつも的中してしまうのだろうか。

「オイそこの中分け眼鏡!!この標識がどういう意味が考えてみろ!!」

突如、先生は窪谷須くん指名で問題を出題してきた。ホワイトボードには何やら道路標識が一つ貼り出されている。

あれは...右折禁止、だろうか。いや違う、あれは車両横断禁止の標識。
バイク免許取りに行くと決まっていたから、あらかじめ予習しておいておいたのだが…こんなすぐに役立つとは。

ここはビシッと私が答えてしまいたいところだが、今指名されているのは窪谷須くん。
正直...彼に答えられるとは思えない。だから先生も窪谷須くんを指名したのだろう。案の定、彼のこめかみからはたらりと汗が流れている。

「...喧嘩、上等...?」
「あぁん!?何言ってんだテメェ!!」

先生が怒るのも無理はない。彼はどこからその答えを導き出したのか。ちょっと頭の中を覗いてみたい気持ちになった。

どうやら免許取得にはまだまだ課題が山積みのようだ。
海藤くんはバイクを起こすための体力作りを。
窪谷須くんは学科試験に受かるための勉強。
楠雄くんはと言えば...。

「2人とも思ったより、免許取るの大変そうだけど大丈夫かな...楠雄くんは、どう?」

学科試験の勉強中にヒソヒソと声をかけてみれば、こんなの朝飯前だと言わんばかりの顔をされてしまった。
楠雄くんは勉強もそこそこできるし、体力面においても腕の力でバイクを起こしてしまうくらいだから何も問題はないだろう。
私もせっかくバイトで稼いだお金を無駄にしないように、頑張らなくては!


ーーーーーーー・・・・

あっという間に2週間は過ぎて行き、私たちの免許合宿も最終日となった。

「いいいいいい!! ...やったー!!ついに起こしやがったー!!」
「ハァ...ハァ...出来た...」

2週間みっちり行い続けた筋トレの成果もあって、海藤くんは初日の課題であったバイク起こしが無事できるようになっていた。

そして、もう1人課題を抱えている窪谷須くんはというと...。

「自転車以外の軽車両通行止め。」
「じゃあこれは?」
「警笛区間。」

先生の出す問題にすらすらと答えている。彼もノルマをどうやら達成することが出来たようだ。これもイライラしながらもずっとテキストと向かい合って頑張り続けた成果なのだろう。窪谷須くんはヤンキーだけれど、根は誰よりも真面目なのだ。

そして、私と楠雄くんだけれど、しっかり免許取ることが出来ました。

「瞬も斉木も、平凡も大した奴だぜ!」
「亜蓮もな!!」
「フッ...最初はどうなるかと思ったが...4人とも良くやったな...」

この2週間、先生も私達のことで気苦労があったのだろうか。サングラスの人下から涙が流れていた。
先生に感化されたのか海藤くんと窪谷須くんからスンと微かに鼻をすすることが聞こえてきた。この涙は辛い2週間を弱音も吐かずに頑張ったからこそのものなのだろう。

「お前ら全員卒業だー!!」
「ありがとうございましたー!!」

こうして長かった免許合宿は幕を閉じた...が、私は気付いてしまった。2人の目的が免許取得ではなく、それ以前の課題が目的になっていたことに。

私はその言葉をぐっと飲み込むと、取得したての運転免許証をそっと財布の中にしまいこんだ。

The END





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