第113χ ニーチェ、カフェでピラフを食す(前編)@




小説 Extra Story of Psychics より

今日の私は上機嫌だ。
どのくらい上機嫌かと言うと、野外だというのに恥ずかしげもなく鼻歌混じりに道を闊歩してしまうくらい...今年一番と言っても過言ではないだろう。

普段一般人より圧倒的に感情の起伏が少ない私がここまでご機嫌になるかというと、その正体はコーヒーゼリーだ。

コーヒーゼリーと言っても、そんじょそこらのコーヒーゼリーとは格が違う。
コーヒーゼリーを熟知したバリスタがコーヒーゼリーのために豆を調合し、焙煎した絶妙なコーヒーを用いている極上品なのだ。

このコーヒーゼリーを手に入れるために半年前に予約して、今日やっとコツコツと貯めたお小遣いを握りしめて受け取ってきたものだ。

未体験のコーヒーゼリーがどんな味なのか、想像するだけで涎で口の中がいっぱいになりそうになる。早くこの味を体験してみたい。
だから、寄り道なんてしている余裕はないし一刻も早く帰りたい。

赤々と燃える夕日を横目に河川敷沿いの土手を歩く。河川敷にあるグラウンドでは、今まさに地元野球チームの練習試合が行われていた。威勢のいい声が、土手の上にいる私のところまで聞こえてくる。

「リーリーリー!」
「ラーメン!相棒!ラーメン!」

聞き慣れた声にハッとして反射的に声のする方へ視線を向けると、そこにはグローブを持って野球のユニホームを着た燃堂くんがいて、手を振りながら向かう先には偶然にも楠雄くんがいた。

「相棒、一緒にラーメン行こうぜ?お?」

燃堂くんは相変わらずラーメンが好きだ。今もこれからラーメン食べにいこうと楠雄くんを誘っているようだ。
楠雄くんはと言うと、一見無表情に見えるがあれは拒否を表している。目を見ればわかる...完全に醒めきっている。

それもそのはずで、もう日も暮れようとしている。帰ったら丁度夕飯の時間だろう。それなのにラーメンを食べようと言う気にはならない。
それに燃堂くんの服装から見るに野球をしていたようだけれど...いきなり抜けても大丈夫なのだろうか。

いや、そんなことは私にはどうでもいいこと。
今は何事もなく家にたどり着くことが私のミッションなのだ。

彼らに気付かれないように土手の端を、顔を伏せながら歩いて行く。もう日も落ちてきて辺りは暗闇に包まれようしている。すぐには私だとは気づかないだろう。気付いたとしても、私が気付かなかったふりをすればいい。

「お?平凡じゃねえか。一緒にラーメン食いに行くか?おっ?」

なるべく彼らの視界に入らないように細心の注意を払っていたのに、気付かれてしまった。しかし、私が気付かないふりを...できるわけもなかった。

「こ、こんばんは...ね、燃堂くん。今日はもう遅いし、ラーメンはまた今度が、いいかな。」
「そーか、そりゃ残念だ。ところで、ラーメン食いに行くか?」

どうしても彼はラーメンが食べたいらしい。ラーメンはと言いつつ、肉野菜炒め食べたりするのに。

「だから、今日は無理なんだ。買ったコーヒーゼリー早く冷蔵庫に入れないと...。」

コーヒーゼリーと言う単語に反応したのか、パッと顔を明るくしてポンと私の肩に手を置いてきたのは楠雄くん。
あー、僕もコーヒーゼリー食べるから今日はラーメンは無理だ、とでも言うようにじっと燃堂くんをじっと見つめている。

べ、別に楠雄くんにあげるつもりはないんだけど!...仕方ない、一つだけお裾分けしよう。
そんなことを考えながら燃堂くんに別れを告げて歩き出す。

「あぶねえ平凡っ!!」

突如私を突き飛ばし、先程私がいた場所に燃堂くんが躍り出てきていた。燃堂くんに押されてその場に尻餅をついてしまった私は、燃堂くんの顔面にボールが吸い込まれて行くのを呆然と見上げていた。

ぐしゃりと鈍い音がすると同時に、燃堂くんは白目を剥いて倒れてしまった。

「ね、燃堂くん!?大丈夫?!」

慌てて四つん這いで彼の元に寄ってゆさゆさと肩を揺すってみるも気絶したまま動く気配はない。
どうしたものかと考え込んでいると、燃堂くんは何事もなかったかのようにむくりと起き上がってきた。

「ひゃっ!...ね、燃堂くん?」

無言のままぼんやりとしている燃堂くんに声をかけてみるも、反応はない。
そして彼は私達を一瞥もすることなく立ち上がるとフラフラと歩いて行ってしまった。

顔にかなり野球ボールめり込んでいたけど、こんなこと日常茶飯事だし、自立して歩けるならきっと大丈夫だろう。
私は燃堂くんに背を向けて、楠雄くんと共に帰路に着いた。





*まえ つぎ#
もどる
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -