第111χ 俺達の夏休みはこれからだ! WA




三日目
目良さんは膨よかな身体を手に入れ、燃堂くんはブーツのような屈強な顎を手に入れた。
好奇心で目良さんを抱きしめた時の心地よさは今でも忘れられない。

四日目
二人は巨人となり、私達を見下ろしていた。
この圧迫感は恐怖にも似ている気がした。この世界に巨人がいなくて本当に良かった。

そして五日目
目良さんは可愛い幼女に、燃堂くんはほっそりとした老人に。
幼女な目良さんを持ち帰りたい衝動に駆られたけど、理性で耐えた私を褒めて欲しい。

こう何日も続いて目に見えた変化があったんじゃ治験も何もない。私は原因を突き止めるべく、三人を引き連れて責任者の元へ向かった。

「失礼します、私達が飲んでいた薬について教えてください。二人がボディビルダー並みの身体になるなんてありえない!」
「うわああああ!!」

筋骨隆々な二人を見て思わず先生も悲鳴を上げる。薬の知識を持つ人が悲鳴を上げるなんて、そんなもこれは予測不能な事態なのか。

そもそもこんなことは現代科学において起こりえないことばかりだ。誰かが意図して二人に特殊な薬を飲ませたのか...もしかしてダークリユニオンとか!

「ちょ、ちょっと待ってください!皆様に飲んでもらったのは偽薬です。そんな効果が出るわけがっ...もしかして...。」

先生は何か思い立ったかのように資料を漁ると一枚の写真を提示してきた。その写真に移されていたのは毒キノコ。
そのキノコの名はパルプン茸というもので、一口食べると様々な異変が起こるものだと言う。ちなみにその効力は1時間程度だそうだ。

まさか異常の原因が拾い食いしたキノコだったなんて。私と楠雄くんには現れなかった理由に納得してしまった。
何はともあれ、みんな身体を崩すようなことがなくて本当に良かった。

最終日の真夜中、朝が来ればこの治験バイトは終了する。
なんだか長かったような短かったような不思議な感じだ。そんな気分に浸りながらぼんやりと窓から外を眺めていれば、扉をノックする音が聞こえてきた。

「目良さん?私のところには食べ物はな...!?」

目の前にいたのは、予想だにしなかった人物である楠雄くん。一体何の用なのだろうか。立ち話もなんだろうと私は彼を部屋に招き入れた。

「どうしたの、こんな時間に...?」

ベッドの端に腰かけた楠雄くんの隣に私も腰を下ろして問いかけてみるも彼からその問いが返ってくる様子はない。
もしかしてオカルト部でうっかり漏らしてしまった時の私の言葉を気にして来てくれたのだろうか。

「もしあの時の言葉を気にしてたならごめんね。忘れてくれて、いいからね。」

忘れてほしいなんて嘘。自分の気持ちになんて嘘付きたくないけど、楠雄くんに嫌われる方が私にとって苦痛だから。すべて無かったことにしてしまった方が楽。

心の中で自分に言い聞かせるように何度も何度も復唱する。これでいい...全部押し殺してしまえば、楠雄くんとまた一緒に居られる。

ふいに腕を掴まれて引き寄せられると、私は彼の腕の中にいた。

「く、楠雄くん...?」

思いもよらぬ彼の行動に頭がパニックを起こして、腕に力を込めて身体を離そうとするも彼の腕は強まるばかりで抜けられそうにない。
密着した身体から心音が伝わって、私の心が覗かれるよう。楠雄くんの心が雪崩れ込んでくるよう。

私は繕って隠し続けてきた感情を吐き出すように彼に縋り付いて泣いていた。楠雄くんは何も言わずにずっと背中や髪を壊れ物を扱うように撫でていてくれた。

朝、外から差し込む日差し意識が覚醒して行く。
目を覚ました時にはベッドにちゃんと横たえられていて、楠雄くんの姿を見つけることができなかった。

身体が、心が軽い。
彼がずっと抱えていた不安や想いを全部取り去ってくれたような、そんな清々しい朝だった。

To be continued...





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