第111χ 俺達の夏休みはこれからだ! W@




8月10日 - 8月16日
治験バイト

「っかれしたー!!」

長かった部活の合宿がようやく終了し、私達は道中怪しいキノコを食べて倒れていた目良さんを拾い上げて、バイトの会場である施設へ向かった。

治験...医薬品の製造販売の前に安全性や有効性を確認するために行う臨床試験のこと。
その内容、そして高額な謝礼から様々な怖い話や都市伝説が存在するが、実際はあらかじめ投与される薬について明確な説明と参加者の安全を考慮した綿密な実施計画に基づいて行われるため、危険は少なく、そう言った噂の大半はデマである。

私達は施設にたどり着くと、今回の治験についての詳細を聞くため大部屋に集められた。
やはり謝礼が高いということもあって部屋は満席状態だった。集まっていた人は若い人女の人からから中年のおじさんまで老若男女で年齢層も様々だ。

今回の治験の責任者であろう先生が前に立ち、1週間の予定を説明してくれた。治験の内容はいたって簡単。出された胃薬を朝昼晩と飲んで採血をするだけで良いとのこと。

医者の管理下に置かれて安全も保障されているにも関わらず、どうにも拭い去れないこの不信感はなんだろうか。

「なんかヤベー臭いすんぜ、なぁ相棒?なぁ平凡?」
「そんなことはないと思うけど...一応医療機関だし。」

そうだ。ここはちゃんとした企業の施設で、万が一ここで問題が発生すれば、治験に用いられた薬は世に出回ることもなく、加えて企業はそれは社会的にも非難されてしまう。つまりはデメリットしかないのだ。

「逃ゲ...」
「さて、質問がある方挙手でお願いします。」

...今のは質問してもいいのだろうか。
明らかに血色が悪く、瞳虚ろな人が扉の隙間から覗いていたのだけれど。それを何事もなかったこのように隠す医者達。...やはり警戒するに越したことはないだろう。

こうして疑心暗鬼な空気のまま、私達の治験バイトが始まった。

最初に渡された胃薬を一錠飲んでみたけれど、今のところ身体に異常は見られていない。もしかしたら遅れて作用が出るのかもしれないけれど。
プレイルームで過ごす人達にもチラチラと視線をやって観察してみるも、特に問題はないようだ。

「おあァ!!また負けた!!もーちょいだったのに!!」

楠雄くんと燃堂くんはテレビゲーム真っ最中。勿論、ビリは燃堂くんでトップは楠雄くん。
途中で逆走したり穴に落ちたりとしているのに何に対してのもう少しなのだろうか。

私と目良さんは粛々と内職作業中。
造花は想像していたより楽しい。しかし、一体誰がこの資材を用意したのか...目良さんしかいないのだけれど、こんな遠いところまで大荷物を抱えてくる根性に尊敬の念さえ覚える。

プレイルームでひとしきり遊んだ後は、自室で各々過ごし、一日目は何事もなく終了した。


ーーーーーーー・・・・

次の日

「おはよう、昨日はよく眠れた?私はぐっすりでおかげで体が軽くってー!」
「おはよう...私はそこそこかな。」

起きてきた目良さんに挨拶をして、一緒に洗面スペースまで向かう。
なんだろう...先程から何か違和感があるというか、何か足りないような気がしてならない。起きて最初に見た景色が家の天井と違うとか、そういうものではなくてもっとこう...身近な。

私はハッとして再び目良さんじっと凝視すれば、その違和感を突き止めることができた。

「目良さん...あの、言いにくいことだけど...胸が...。」
「あれ?!ない!!」

ペタペタと胸を触りながらパニック起こしている。自分で軽いって言っていたのに...彼女は自分の変化にはかなり疎いのかもしれない。それじゃなきゃこんなにたくましくはいられないのだろうけど。
そんなやり取りを目良さんとしていると、楠雄くんと燃堂くんもやってきた。

「おはよう...じゃなくて、目良さんが大変な...っ!」
「お?どーかしたか?」

楠雄くんの後ろに隠れて見えなかったけど、燃堂くんの左腕が二倍くらいに増大している。この腕なら人も簡単に握力で潰すことができそうだ。

「わっ!膨らんだわ!!」
「お?萎んだぞ?」

突如、目良さんの胸が膨らんで燃堂くんの腕が元に戻ってゆく。一定時間が経つとどうやら元に戻るようだ。

これは薬の副作用なのか...私と楠雄くんは二人に起きたような変化は何も起きていないところを見ると個人差があるように見受けられる。

二人に対して起こった変化に関して、今のところ直接身体に害があるわけではないと判断し、とりあえず数日間は薬の様子を見ることにした。





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