第110χ 俺達の夏休みはこれからだ! V@




8月3日 - 8月9日
テニス合宿

遠井町。
私達の住む町から電車で2時間弱の所にある、山と海に囲まれた自然豊かな町。
そんな場所で私はどういう訳か、マネージャーとして汗を流している。

原因は承知の通り、楠雄くんと灰呂くんだ。
何が楽しくてこんな炎天下の中、せっせと動かなければならないのか...本来の予定ではエアコンが程よくかかった快適な図書館で本の虫になっていたところだと言うのに。

「斉木くん!初心者にしてはなかなかいい動きじゃないか!!ウインブルドン目指そう!!」

目キラキラさせて部活に勤しむ灰呂くんの姿は男子高校生らしいと言えばらしいけれど、相変わらず熱い、もとい暑い。彼がこの場所の気温を更に高めているんじゃないかと疑うくらいだ。

私はせっせとラケットを振り回しているみんなを横目に自身の作業に精を出す。マネージャーと言えば聞こえはいいが、要は雑用係だ。

部員のために、キンキンに冷えたスポーツドリンクを人数分用意したり、使用済みのタオルや衣服も洗濯し、更に合宿所は場所だけ借りているらしく、手の空いている私が食事の用意もやらなければならない。

正直、専業主婦を甘く見ていた。こんなに家事というものが大変だとは思わなかった。全国のお母さんごめんなさい。

「平凡さん、忙しいところ悪いけどこっちに来てくれるかな?」
「私...?今、行きます。」

灰呂くんの呼び出しに一旦作業を止めて彼の元へ向かう。男子部員集合しているところを見ると、ちょっとしたミーティングを行うようだ。

「同じクラスの燃堂くんと斉木くん、そして平凡さんだ。合宿に参加してもらうことになったんでよろしく頼む。」
「よ、よろしくお願いします!」

ペコリとお辞儀をすればみんな拍手で私達を出迎えてくれた。
今更だけど、燃堂くんがいたなんてまったく気付かなかった。確かに運動神経はズバ抜けているし、いても不思議はないのだけれど...私には彼が部活なんてと少し違和感を覚えてしまう。

「お前ら練習はどうした?遊んでんじゃねぇぞ。」
「コーチ!!チワース!!」

鬼コーチがコートに入ってきて一気に場の空気が引き締まる。確かに威圧感あるし、ポロシャツの襟が立っているところ、厳しそうなコーチだ。

集合していた人達はコーチの喝に散り散りになり、己の練習黙々と行い始めた。私も何言われない内にとコートから出ると、自身の仕事に戻ることにした。

一通りの作業を終えてふとコートに目をやれば、燃堂くんがコーチの指導を受けていた。
流石の運動神経の良さ、どんなところにボールが飛んでいってもたちまち追いついて打ち返してしまう。
時折ヌルヌルと残像が動いているように見える...その光景は何とも異様だ。

「どうですかコーチ!彼の運動神経は...。」
「...灰呂、お前アイツと試合してみろ。」

コーチの言葉にコートが一気に騒ついた。
それは当たり前のことで、部活でも実力派であり部長である灰呂くんが、たまたま部活に参加した燃堂くんが対決するのだから。

「燃堂くん、僕と試合やらないか?きっともっとテニスが楽しくなると思うよ。」
「いーぜ、ただし相棒とチームっつーならな。」

まさかのダブルス。しかも燃堂くんは楠雄くん指名で。
燃堂くんは異常なほどに楠雄くんが好きだと感じる時が時々ある。その仲の良さはちょっとした誤解を招いたりもしているのだけれど...楠雄くんに対する好きならば私も負けてはいないつもりだ!

「仕方ないね、ダブルスで手を打とう...誰か、僕とダブルスやってくれないか?」

灰呂くんが辺りを見回しながらペアになる相手を探す。しかし、部員達はなぜか目を合わせないように俯いたりそっぽを向いてばかり。

それはそのはず。
ペアになるのは部長である灰呂くんだし、燃堂くんの身体能力を見て怖気付いてしまったのだろう。私もきっと部員だったら同じようにしていたと思う。

「お?いねーのかよ。それじゃーな...」

あ、マズイ。燃堂くんと目が合ってしまった。





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