第109χ 俺達の夏休みはこれからだ! UB




「それじゃくじ引きいくっスよ!この違う長さの割り箸の中で、同じ長さの割り箸を引いた物同士がペアになるっス!」
「誰となるのかなーっ!ドキドキ!」

異常にテンションが高い鳥束くんと知予ちゃんをよそに、冷静な楠雄くん、知予ちゃん、万城乃さん、海藤くん、私の順でくじを引いて行く。

くじ引きの結果、ペアは鳥束くんは知予ちゃん、海藤くんは万城乃さん、そして私は楠雄くんとなった。

「知予ちゃん...暗いから足元気をつけて行こうね。」
「...う、うん...そだね。」

目に見えて落ち込む知予ちゃんをなんとか元気付けようと、当たり障りのない声をかけてみたけど...相当ショックが大きいようだ。

応援すると言ってもくじ引きだけは神のみぞ知るところで、私がどうこうできる次元を超えている。サポートできなくてごめんね、知予ちゃん。

明らかに雰囲気が思わしくない鳥束くんと知予ちゃんを見送った後に、続いて私達も出発した。

森の外は月明かりと星の輝きで明るく感じていたけれど、森の中に入って行くと木々が光を遮り、奥へ進むほどにどんどん周りは暗くなって行く。

鳥束くんのオカルト話を全ては信じていないけれど、夜の海と同じで暗闇に人が引き込まれて行くというが何となくわかった気がする。

「...どこまで行けばいいのかな。出口、あるのかな。」

様子を窺うように、前をズンズン進んで行く楠雄くんの背中に声をかけてみるも振り向く様子はなく、あたりは私達の足音と僅かに虫の鳴き声が聞こえるだけ。

居心地が悪くて仕方がない。
今まで楠雄くんといてそんな風に感じたことは一度もなかった。けれど、ロンドンから帰国してからは違う。楠雄くんの様子が変だ。

周りから見たら通常運転だと感じるかもしれないけれど、私にはわかった。楠雄くんがなんだかよそよそしくなった気がする。
少し前に元気ないねとか、遠回しに聞いてみたものの何でもないというように首を振られてしまった。

これ以上、私が踏み込んでいいのかと思いあぐねて、約一ヶ月...そろそろ私の我慢も限界が来ている。この距離感には耐えられない。

「...私、楠雄くんに何かした?」

立ち止まってボソッと呟けば、彼の足音が止んでこちらを振り向いた。私はそのまま彼の目を見つめながら言葉を続ける。

「ロンドンから帰ってからよそよそしくなった気がする。今までは踏み込んだらダメかなってずっと我慢してたけど...もう、耐えられない。不安だよ...っ。」

ついに言ってしまった。
面倒な女だと思われただろうか。自然と目頭が熱くなるのがわかる。
私達の周りは音が全て消え去ったかのように沈黙が続く。...その沈黙を最初に破ったのは楠雄くんだった。

私の方に向かって一歩、そしてまた一歩と近づいて来る。私も一歩一歩距離を詰められないように後退して行く。

背中にひんやりとした木の感触を感じたと思えば、すぐ目の前には楠雄くん。もう逃げ場はない。
彼は何をするつもりなのだろうか...表情からは彼の思考を全く読み取ることはできない。

なおも楠雄くんは私と距離を詰めて来る。
その距離は唇に彼の吐息がかかるほど...もしかして、これは...。

「キャァアアッ!!」

静寂の森に一人の悲鳴が響き渡る。あの声の主は知予ちゃん!
私達は顔を見合わせると声のする方へ慌てて向かった。

「知予ちゃん、大丈夫!?」
「い、猪っ!!た、助けて...!」
「大丈夫か、夢原!!」

私が駆け寄ろうとした途端、草むらから飛び出して来た海藤くんが猪の前に立ちはだかった。猪も興奮しているようで息が荒く、今にも飛び掛ってきそうだ。なんとかしないと...っ!

私は腰の抜けた知予ちゃんを海藤くんと引きあげて、ゆっくり猪の視界から外れるように誘導する。
そうすると猪は私達を襲うでもなく、できた道を駆けて行ってしまった。どうやらこの道のは猪の住処へ通じる道だったのだろう。

「海藤くん、怖かった...っ!」
「も、もう大丈夫だ...この漆黒の翼がい、猪を追い払ったからな...!」

海藤くん足震えているけど...知予ちゃんを助けてくれてありがとう。友人の私から改めて海藤くんには感謝の意を何らかの形で贈りたいと思う。

万城乃さんも楠雄くんも無事みたいで、ホッと胸をなで下ろす。...誰か忘れているような気がするけれどまあいいか。

みんなで来た道を戻ってお寺へ向かう。
道中、私の脳裏をよぎったのはあの時の飢えたような楠雄くんの瞳。
楠雄くんは、私に...。

To be continued...





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