第108χ 俺達の夏休みはこれからだ! T@




ロンドン旅行から一ヶ月。
いよいよ待ちに待った夏休みが訪れようとしている。

「夏と言ったら海っしょ!?」
「夏祭り行こーよ。けんけん誘ってさ〜。」

生徒たちの話題は夏休みに何をするかの話題で持ちきりで、教室内はいつも以上に浮ついているように感じられる。

勿論、私も例に漏れず夏休みをとても楽しみにしている一人である。なぜならば夏休みにやりたいことが既に決まっているからだ。そのやりたいことと言うのは、海でも夏祭りでもない...市営図書館の本を制覇すること。

この街に引っ越してからコツコツと休みの日に通ってはひたすら本を読み漁っていた。
そしていよいよ、夏休みをフルに使えば読み切れるところまで来ている。下手したら市営図書館の司書さんより本について詳しいかもしれない。本の位置も内容も完璧だ。

新しい本に出会えると思うと自然と気持ちが高揚して、つい鼻歌を口ずさみたくなってしまう。しかし、まだここは学校。はやる気持ちをじっと抑えて、ちらりと隣の席に視線を移す。

私の隣の席...つまり、楠雄くんは今日も通常運転のようだ。もうすぐ夏休みだと言うのに浮かれる様子はない。その精神見習いたいところだ。

楠雄くんは今年どんな夏休みを過ごすのだろうか。彼も一人でのんびり過ごすのだろうか。それとも誰かと夏を満喫するのか...前者であってほしいと願っていることは彼には内緒だ。

そう言えばさっき、海藤くんと窪谷須くんが来てバイクの免許取りに行くとか、目良さんとバイトするとか話していたような。

「相変わらず楠雄くんはモテモテだね。夏休み面白いことあったら聞かせてね?」

冗談交じりに話しかけてみれば、彼はこちらを向いて勘弁してくれと言わんばかりの困り顔でため息を漏らす。
なんだか最近バタバタしていたから、こういう何気ない会話にもかかわらずとても幸福に感じられる。何度か不思議な気分だ。

さて...今日も楠雄くんと戯れられたし、授業までまだ時間もある。私は席を立つと一度教室を出た。


お手洗いから戻ると、楠雄くんが廊下の窓から外をぼんやりと眺めていた。恐らく席にいると絡まれるからと避難したのだろう。
ぼんやりとしている楠雄くんのもとへ誰かやって来て話している。あれは...灰呂くん。

「夏休みウチの部活の合宿に参加しないかい?」

灰呂くんのハキハキとした声は遠くにいても聞こえてくる。それにしてもいつ楠雄くんと灰呂くんは部活を共に楽しむ仲になったのだろうか。私の記憶では、二人の絡みはドッヂボールと体育祭準備のときくらいしかないのだけれど。

案の定、楠雄くんは灰呂くんのお誘いを断ったようだ。少ししょんぼりとした灰呂くんは他の人を当たるのだろう、教室には戻らずにどこか行ってしまった。

「斉木さん!聞いてください!」

今度は鳥束くんかな。
話を聞く前に楠雄くんは彼から遠ざかろうとする。楠雄くんは鳥束くんに対して他の人以上に冷淡な気がするのは気のせいだろうか。

「ちょっと聴いてます!?オカルト部で夏合宿しましょうよ!」

そんな部活あったっけ...というか、一応私も仮だが部員だ。
万年帰宅部だった私には、夏の合宿というのはちょっと心惹かれるものがあるけど、私には別の野望もあるし、そもそも誘われてさえいない。まったく関係のない話だ。





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