第84χ 不良と一般人の間(後編)A




手が引っ張られてゆく感覚と共にドンっと力強い音が聞こえたと思えば、海藤くんが不良の背中に体当たりをかましていた。
おかげで不良は前につんのめる形となり、私はその隙に抜け出して海藤くんと楠雄くんの方へ。

「逃げるぞ斉木、平凡!!」

海藤くんの声にコクリと頷くと不良に背を向ける形で走り出す。
ようやく逃げだせたと思った矢先、今度は海藤くんが捕まってしまった。そういえば彼は運動音痴だったんだっけ。体育祭のことすっかり忘れていた。

せっかく身を呈して助けてくれた海藤くんを置いてはいけない。楠雄くんとピタリと立ち止まれば不良の方へ視線を向ける。
不良に掴まれている海藤くんの顔が穏やかなように見える。きっと私達が逃げられたことに安堵しているのだろう。彼は強くもないのにいつだって前出て私達を助けてくれる。一番恐怖を感じているのは海藤くんのはずなのに。
私だって海藤くんを守りたい...どうしたら、いい...っ。

「よぉ、何してんの?」

ふと声がする方へ顔を向けるとそこには窪谷須くんが。私達を見てすぐ状況を察したのか、顔には動揺の色が広がってゆく。
しめた!窪谷須くんならこの状況を打開してくれるっ。彼に助けようと口を開こうとした刹那...。

「窪谷須!!何ボケッとしてんだよ!!早く逃げろよ!!」

私は耳を疑った。何されるかわからない彼が一番助けを求めているはずなのに。早く逃げろだなんて。
海藤くんだって窪谷須くんなら不良達を蹴散らしてくれるだろうことはわかっているはず。窪谷須くんを危険に晒したくない一心なのだろう。

「さっさと2人を連れて逃げろ!こんな奴ら俺1人で瞬殺だからよ!」

明らかに顔は強張っているのに、強がって見せる海藤くん。不良を殴る彼の腕がポキリと折れる音がする。うん、やっぱり駄目そう。だからと言って彼を逃げられもしないし、窪谷須くんにも頼めない。このままでは現状打破は出来そうにもない。

「...悪いな、海藤...」

窪谷須くんが落ち着いた声色でそっと言葉を発する。すると同時に財布を奪いに来た不良を拳一つで蹴散らしてしまった。

「前の学校じゃ結構荒れててよ...でもこんなんじゃダメだと思って真人間になろうとしたんだ。でも、普通の道は不良より厳しいな。」

淡々と言葉を紡ぎながら不良達をあっという間に打ちのめしてしまう。私も楠雄くんもすっかりアウェーな状態で2人を見守ることしかできない。

「我慢ならねーんだ。喧嘩を売られたり ...仲間を傷つけられたりするとよォ!!」

カッと目を見開いた窪谷須くんの右拳が1人残っていた不良をなぎ倒した。それは数分も満たない僅かな時だった。

無事危機を乗り越えて4人で帰路を歩く。
不良に絡まれたことが嘘のように、穏やかに空が夕日色に染まる。
この件もあってすっかり海藤くんの窪谷須くんへのわだかまりが解け、すっかり仲良くなったようだ。

その2人を見つめながら私は3人の後ろを歩く。今回は反省しなくてはいけないことがたくさんある。
それは2人の気持ちを無下にするようなことばかりを口に出さないまでも考えてしまったこと。
反省の意を込めてパチンと自身の両頬を叩けば、その音に反応して楠雄くんから不思議そうな視線を向けられてしまった。

「私も強くならなきゃって思っただけ...」

見つかったのが恥ずかしくてはにかめば、ほんのりと赤らんだ頬を触れる冷たい彼の指先。私は控えめにその指先に頬を擦りつけた。
いつか、海藤くんのように私も彼を...彼らを守れる日が来るといいな。

The END





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