これが絶対絶命ということか。
目の前には強面の不良供が4人。
そして俺の背後には斉木と平凡がいる。俺1人ならこんな奴らは目じゃねぇが...2人を庇いながらは、流石の俺でも不利だ。
「やっ...やばいよ!有名な不良高の人達だよ...!」
「か...海藤くん、わ...私、怖い...っ!」
斉木も平凡も怖がってるな...無理もない。
使うか...いや...この力は危険過ぎる...!
「...オイ、シカトしてんじゃねーよ...オラァ!!」
「瞬!!」
頬に感じたのは殴られた痛み。耳に響いたのは斉木の狼狽した声。そんな怖がるんじゃねぇよ...心配しなくとも俺が2人を守ってやる。
「な...何で倒れねェんだコイツ...!?」
「こいつ...不死身か...!?」
何発食らわせられただろうか。身体の感覚がもうありゃしねぇ。口の中は切れて血の味しかしない。だが、こんなの友達が傷付く痛みなんざより何倍も軽い。
中々倒れない俺に驚き反面、苛立ち反面といったところか。キリがないと悟ったのか、いよいよラスボスの登場。百鬼丸先輩とやらが出てきた。
ニヤニヤと笑う面が何とも不気味だ。頭のネジが何本か抜けているようだ。コイツはもう人間じゃねぇ!人を苦しめる快楽を覚えちまったただの化け物...こんな奴らに2人を殺らせたりはしねぇ!
「じゃあボクこれ使うから頑張って耐えてネ〜。」
「ちょっ...そんなんで殴ったら死んじゃいますよ!!」
百鬼丸先輩の手には鉄パイプ。こんなもので殴られたらひとたまりもない。だが、俺を狙うならまだ、可能性はあるかもしれない。ニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを崩すことなく、勢いよく鉄パイプが振り下ろされる...俺、俺だけで済むなら。
「なーんちゃって☆やっぱこっちにしよ〜。」
「え、や...きゃぁああっ!!」
鉄パイプの矛先には平凡!
だめだ...何があっても、友達だけは傷つけさせない!!
「おろ...?お...おれの腕は...?どーなってんの...?」
百鬼丸先輩の腕は鉄パイプと共に地面落ちた。
もう...この手段しかなかった。俺は無意識に右手の包帯を取っていた。この技を使うために。
「貴様らの人生はここで終止符をうつことになった...冥土の土産に見せてやろう...我が力...ブラックビートの...」
...なんて、都合の良いことなんて起きるわけもなく。私達は現在進行形で不良になす術なく絡まれている。既にご承知のことと思うけれど、ここまでの茶番は海藤くんの妄想だということを一言付け加えさせてほしい。
「おい!ぶっ殺されてーのかテメ!!」
「...ん?あれ?お前は倒したはずじゃ...」
海藤くんは未だ妄想に浸っていた模様。この後状況じゃ妄想に逃げたくなる気持ちもわかるけどね。私も海藤くんに秘められた力があればと一瞬だったけれど願ってしまった。新年と言えど、そんな人間を卓越した力を神様が与えてくれるはずもない。
不良に脅されて海藤くんは渋々財布を差し出してゆく。勿論、楠雄くんも。
私も震える手で大事な財布を震える手で差し出す。こんなこと起きるなら財布の中にお年玉いれておくんじゃなかった!
「頭の良い子は嫌いじゃないないぜぇ?っ...て、アンタ可愛いねぇ。俺達の相手してくれるなら財布もいらねぇし2人を助けてやるよ?」
「や...やめてくださいっ」
不良供ニヤついた表情と、その汚らしい手が私の頬に触れる。気持ち悪い...気持ち悪い!
なのにどうすることもできない悔しさに、目頭が熱くなっていく。そんな姿を見られたんじゃ不良達を煽るだけ。なるべくそれが悟られないようにぎゅっと唇を噛み締めて目を瞑った。