第85χ そうだ、アルバイトしよう。@




「そういえばあのバカはどうした?」

海藤くんの何気ない一言にハッとして辺りを見回しても、話題の本人は見つからない。そこにいるのは私と楠雄くん、それと海藤くんに窪谷須くん。普段なら件の人である燃堂くんも混じって5人で帰っているのだけれど、珍しく今日はまだ見てすらいない。

「学校でも見てないような気がする。...楠雄くんは見た?」

私の問いにふるふると首を振ってくれた。どうやら楠雄くんも彼には遭遇していないらしい。珍しいこともあるものだ。風邪で休んだのだろうか。
いや...彼に限ってそんなことはないとは思う。風邪でないならば、なぜ学校にも来ないのだろうか。それはそれで心配になって来てしまう。

「あ!今週のジャンプ買ってないな...コンビニ寄っていいか?」

海藤くんは彼がいないことを指して気にしていないようだ。それは窪谷須くんと楠雄くんも同じ。彼だからこそ、さして心配していないということなのか。男子の友情の絆というものは、女子には見えないものなのか。そう思ったら少し寂しさを感じてしまった。

「へいらっしゃい!!」

私達は確かに最寄りのコンビニに入ったつもりなんだけれど、寿司屋にでも間違えて入ったかな。外に視線と向けても看板は確かにコンビニのそれ。
確認を終えて店内に再び視線向けると、3人の唇がわなわなと震えている。一体どうした事か。3人の視線を追った先にいたのは件の人。

「燃堂!?お前...どうしたんだその格好は。まさか...!」
「昨日からバイト始めたんだよ。お?言ってねーっけ?」

こんな斜め上から来るとは思わなかった。流石燃堂くんと言ったところか。彼の顔を見るみんなの表情が思わしくない。あの燃堂くんがバイトしているなんて信じられないというのと、ちゃんとやれるのかと言ったところだろう。それには私も同意だ。4人で顔見合わせると、燃堂くんの仕事ぶりを窺うことにした。

「無理だろ...アイツが働くなんて。まぁコンビニくらいならなんとかなんのか...」
「オイオイコンビニバイトナメンなよ。」

確かに窪谷須くんのいう通りだ。
コンビニはどこにでもあるし、誰でもやれるバイトかと思いがちだけれど、それがそうでもない。コンビニは通常のスーパーと同じで食べ物の陳列補充や店内清掃をしなくてはならない。それに加えて、タバコの銘柄を覚えたり、宅配や、コピー機の管理などなど便利な分だけやらなくてはいけないことが多くなる。
私はバイトしたことないけれど、いつも見ていて大変だなぁとはいつも感じている。

そんな私達の不安をよそにようやく客が燃堂くんのいるレジへ。果たしてうまくできるだろうか。

「おー、全部で500円っつーところだな!」
「オイ八百屋じゃねーんだぞ!レジ通せよ!」

燃堂くんのアバウトな会計に素早くツッコミを入れたのは窪谷須くん。そしてすかさずフォローするべくレジへ。
流石、一時期コンビニバイトしていただけあって手際よく客をさばいて行く。...店員じゃない人間がレジに入っていいのか。そして777円に対して333円のお釣りを返してしまったことはこの際見なかったことにしておこう。

そんなこんなで危なげながらも客とやり取りをしていれば、バックヤードから優しそうな店長が顔を出した。
店長曰く、燃堂くんは心臓発作で倒れていたところ助けてくれた命の恩人だそうで、その恩を返すべく雇ったのだそうなのだが。

「君はクビだ...!」

イイハナシダッタノニナー。
そもそも命の恩人に切り捨てられるほど損害出すって何?!燃堂くんらしいと言えばらしいのだけれども。終始黙って様子を眺めていた楠雄くんもすっかり呆れていた。





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