第74χ 熱に浮かされた思い出(前編)A




こんなことをするなんて君くらいだよ。

君に見合うようになったら...会いに行くから。


ふと、とても幼い頃の夢を見た。
あれは物心つき始めたくらいだったと思う。ぼんやりしているけれど、いい思い出ではなかったことだけはよく覚えている。

私が人生でたった一度、人に向かって手を振り上げた瞬間だった。

目覚めたら私は自身の部屋のベッドで横たわっていた。一番新しい記憶は確か...学校の教室だったのに。
一体誰がここまで運んだのだろうか。それとも無意識のまま自身の力で帰って来たのだろうか。手を天井にかざしてみれば、制服ではなくパジャマを着ていた。

どうなっているのだと一生懸命思い出そうとしても思い出せない。むしろ、頭痛が増すばかり。
そうだ...私は風邪引いていたんだっけ。それが学校で無理してしまったせいで悪化させてしまったようだ。
身体を起こそうにもうまく力が入らない。扉からノックの音が聞こえてくると、かろうじて首をそちらに向けることはできた。

「仁子、具合はどう?...まだ、熱あるみたいね。何か食べられそう?」

お母さんが様子を見に来てくれた。ベッドの先に腰掛けて私の額にお母さんの手が触れる。先ほどまで水仕事をしていたのだろう。ひんやりとした手が心地いい。
私がこくりと小さく首を縦に振ると、お母さんは微笑みかけてくれた。辛いはずなのに私の頬も自然と緩んでくる。ここが一番私が安心できる場所。

「それにしても驚いたわ。まさか楠雄くんが仁子を家まで運んでくれたなんて。」

やっぱり一人じゃ帰れなかったのか。それに楠雄くんにも迷惑をかけてしまったらしい。今度会った時にお礼に甘いものでも贈ろうかな。

お母さんは食事の準備と部屋から出て行く。
出て行き様にフフッと笑みをこぼしながら呟いた言葉に、ただでさえ熱い身体が更に温度を上げたように感じた。

お姫様抱っこだなんて、おとぎ話みたいね。

次の日、私の体調は回復することはなく久々に学校を休んだ。

To be continued...





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