第74χ 熱に浮かされた思い出(前編)@




コホッ、ケホケホ

「ボイパだべ?」

そんなわけがない。
朝から燃堂くんのボケに心の中でつっこんでしまった。彼がボイパだと称したのは海藤くんの咳だ。
珍しくマスクつけているなと思っていたけれど、思っていたより調子悪そうに咳を繰り返す様子になんだか心配になってしまう。マスクを外した彼の顔はほんのり赤みが差している。恐らく熱もそれなりにあるのだろう。

「風邪かい?海藤くん。」
「あぁ...ちょっとな...これは恐らくダークリユニオンが撒き散らした新種の細菌兵器に違いない...!」

灰呂くんが心配そうに見つめる中、辛そうにしながらも中二病は健在らしく、その語りは止まることを知らない。学校に行かず、ちゃんと病院に行けばいいのに。勿論、脳外科も含めて。中二病が悪化したら大変だからね。

「んだぁ?風邪かー?弱ェーなチビは。」
「なっ...風邪くらい誰でもひくだろ!チビは関係ない!」

今は年末。そろそろ空気も乾燥してきて、風邪菌やらインフルエンザが流行りやすくなるこの季節。私も例外なく、風邪を引く可能性がある。...否、すでに引き始めと言ってもいいだろう。喉が実は痛い。
けれど、これだけのことで学校は休めないし、渋々今日も元気に登校中言うわけだ。

「オレ、ねーけど。」
「それはお前が馬鹿だから...窪谷須、お前も風邪か!?ほら、そのマスク!」

唐突に話を振られたせいで、窪谷須は珍しく動揺している。彼は火がつかなきゃ本当に普通の人なのにな。ちなみに、窪谷須くんのマスクは恐らく風邪じゃなく...過去の象徴のようなものだと思う。その証拠に少し言葉を返すのに間が空いている。

「ほら見ろ!普通は風邪ひくんだ...ゴホッゲホホッホガホッホッホッホッ!!」
「海藤くん...本当に大丈夫?苦しいなら無理して学校行かなくてもいいのに。」

海藤くんの背中さすってやれば、咳はなんとか落ち着いてくれたようだ。それでも休むつもりはないらしい海藤くんは首を横に振って学校に向かって歩き出す。

「この漆黒の翼がダークリユニオンごときの細菌兵器に負けるわけがないだろう。」

それとこれとは話が違うような気がするけれど、病気は気からとも言うし...とりあえず私が言っても無駄なうちは見守っておくことにしよう。彼だってもう高校生だ。危ういとなれば自分でなんとかするだろう。

その翌日、やはりダークリユニオンの細菌兵器には勝てなかったようで海藤くんは学校を休んだ。
燃堂くんも海藤くんがいないと騒げないようで、珍しく大人しくしていた。一方で楠雄くんは終始どこか嬉しそうに見えた。

次の日。海藤くんは、1日で体調を回復させて元気に登校してきていた。

「漆黒の翼、ダークリユニオンに打ち勝ち、ただいま参上!」
「海藤くん、おはよう。元気そうになって良かった...ケホッ」

海藤くんが元気になったかと思ったら、私の風邪がいよいよ悪化してきてまった。普段つけ慣れないマスクが煩わしくて仕方がない。

ふと周りを見渡してみればクラスの数人がマスクを着用してどこか元気がない。恐らく、風邪がクラス内に流行りだしたのだろう。
病原菌は誰からきたのだろうか ...誰だかは特定するつもりはないが、ダークリユニオンの細菌兵器が猛威を振るっていると言っておこう。

私は風邪による喉の痛みと怠さを抱えながらも、なんとか授業を午前までこなすことができた。黒板を写したノートが少し雑になってしまったけれど今回ばかりは仕方ない。あとは午後のみとなっている。

昼休みが明けてからの移動教室。必要な教科書と筆記用具を持って自席から立とうとするも、そろそろ風邪が本領発揮してきたようで身体を動かすのも怠くなってきた。

「仁子、大丈夫?顔真っ赤になってるよ?」
「...大丈夫、あとこの授業だけだし。」

一向に動かない私を不審に思ったのか知予ちゃんが心配して声をかけてくれた。私は心配かけまいと笑みを作って返すも、いかんせん...身体の節々まで痛みだしてきた。

「保健室行く?私もついて行くよ!」
「大丈夫...そんなに酷くないよ?あとでちゃんと教室行くから、知予ちゃんは先行ってて?」

いつものように振る舞えただろうか。知予ちゃんはわかったと移動教室に向かって行った。
私も移動しなきゃと気合いを入れ直し、机に腕を踏ん張ってようやく立ち上がることができた。
頭がボーッとする。なんだか眠気もやってきたような、どことなくフワフワと身体が浮いてしまいそうだ。

一歩、二歩と歩を進めるも突然電源の落ちた機械のように私の視界はブラックアウトした。





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