第70χ Eternal Diamond Veronica A




扉が開かれたと思えば鳥束くんと、仮面をつけた少年が入って来た。
その少年は楽器を持つなり適当弾き始める。割と音は出ているし、リズムも悪くない。この中にいる人間よりかはできることはわかった。

「...えーという訳で、彼が新メンバーのψだ。」

うん、明らかに楠雄くんだよね。鳥束くんにどう丸め込まれたかはわからないけど、まさか彼がこんな目立つことに参加しようだなんて予想だにしていなかったから驚きを隠せない。

楠雄くんはいつものように無言でギターを手に取ると、それをTAKERUに差し出す。戸惑いながらもTAKERUがギターを弾きだすと、素人とは思えない音色が部屋に響き渡る。

「どうなってるんスか!?昨日は死にかけのアブラゼミみたいな汚ねぇ音だったのに!!」

続いてはTAKAYUKI。彼もいいサウンドを響かせてベース特有の重低音がなんとも心地いい。

「す...すげぇ!!昨日までは耳元で飛び回る蝿みたいな不快な音だったのに!!」

次はSHINYA。勢いあるリズムに思わずテンションが上がりそうなる。こんなドラムさばきは中々聴く機会はないだろう。

「昨日までは母ちゃんがおたまで鍋を叩いてるみてぇな騒音だったのに!!」

そして最後はREITA。彼の地声には似合わないハスキーボイスに思わず耳を疑いそうになってしまった。

「昨日までは巻き舌で妙にイラつく動画サイトの歌い手みてぇな声だったのに!!」

どうやらψこと楠雄くんのサポートのおかげで人に聞かせられる程度にはなったようだ。ド素人が一瞬で弾けるようになるって、一体どんな魔法を使ったのだろう。

「ちょっと一回、全員合わせてみようぜ!!」

あれだけうまく弾けるのなら合わせてもいい曲になるだろうと期待して曲を聴いていたけれど、段々音が分散されていくというか...完璧なメロディと雑音が入り混じるような不快な音が聞こえてくる。不協和音も混じっているのだろうか、本格的に頭痛がしてきた。足元も覚束ないくらいに。

楠雄くんにボソッと告げると、私は途中にも関わらず部屋を後にした。楠雄くんもこっそり抜け出したのか、一緒に付いて来てくれた。

「あれはなんだったんだろう...曲の途中から下手な音を隠すように完璧な曲が大音量で聞こえてくるから少し音に酔っちゃったみたい。楠雄くんは大丈夫だった?」

こくりと頷くところを見るとどうやら問題ないようだ。結局、保健室まで付き添ってもらってしまった。
ベッドに横になれば楠雄くんは私が寝るまで側にいてくれた。そんな長くここにいる必要はないのに。彼にとっては面倒ごとから逃げるための口実なのだろうけれど。

文化祭はもう目と鼻の先。
こんなところで弱ってないで、こうなったらちゃんと文化祭を成功させたいな。





*まえ つぎ#
もどる
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -