作戦会議を開いたのは良いが、出された案は某SNSを活用した威力業務妨害に、見た目が良くないとビラを貼りまくって安さアピールするなど、いまいちパッとしないものばかりだ。聞いている限り、やったところで客足が遠のくばかりな気がしてならない。
「他にいい案ないかなー。頭のいい平凡さんなら何か出せるんじゃない?」
期待の眼差しをこちらに向けられても困るのだけれど。テストの点数とこういうビジネスはまったく別問題だ。けれど、この店が潰れるのを黙って待つこともしたくはない。私は懸命に考えた。
「まず立て直しに際して店舗についての見直しは行いましたか?今まで計上してきた経費に無駄があるのならばそこから改善していきましょう。それと、他店によってこの状況に陥ったのなら、ここの店舗と他店で何が違うのか分析することも大事です。他店と競うようにこちらを変えるのも手ではありますが、私達顧客はこの雰囲気を好んで日々通っているのです。なので、変えるではなくて他店にはないこちらの良い点...つまりは強みを伸ばすということに重きを置いてみてはどうでしょうか。」
みんなポカンと口を開けてじっと私を見つめていた。少し言い過ぎたかもしれない。何かの参考なればいいのだけれど。
「わかった、仁子ちゃんの意見を取り込んで再度検討し直そう。」
わかってくれたのは嬉しいが...本当に参考になったのだろうか。甚だ疑問と言うより、異議強く申し立てる!
なぜあの話からメイド喫茶の話なってメイド服を着ているのかわからない。しかも、目良さんだけでなく私も。お客さんなんですけど!
どこからこんな衣装持って来たのだろう。もし経費で落としていたなら作戦会議もあったもんじゃない。妙に短いスカート丈を引っ張っていると、店長は満足そうにこちらを見つめている。
「おお!!似合うじゃないか!!とりあえずメイドらしくアレやってみてよ、アレ!」
店長の言うアレというのはメイドの常套句のことだろう。それを言うならば客である楠雄くんが最適だ。恥ずかしいけど、これで気が済むなら。
「...お帰りなさいませ、ご主人様。」
うん、自分にしては満点をあげたいぐらい頑張ったと思う。笑顔も割と自然に作れたし。それを見た楠雄くんにはプイっと目を逸らされてしまったけれど、店長と目良さんには大好評だった。...この傷付いた乙女の心どうしてくれようか。
「おー!!いいね!!よーし!じゃあ明日からこれで営業するからね!」
「店長、私は来ないですからね?」
二人ですっかり盛り上がって置いてけぼりをくらってしまった。そんな二人を見ていたらいつの間にか楠雄くんはお金を置いて出て行ってしまった。
やっぱりこれはないと思ったのだろう。何だか悪いことをしてしまったようで罪悪感が残る。
店長は暫し入り口をぼんやり見つめて、急に憑き物でも落ちたかのように穏やかな表情になるとゆっくり口を開いた。
「...やっぱりこのままがいいなぁ。客は少なくなったけれど、仁子ちゃんが言っていたようにそれでも来てくれる人がいる...その人達のためにもこの空間は壊したくないなぁ...」
店長の言葉に目良さんと顔を見合わせて笑いあう。やっぱり心のどこかで目良さんも思っていたのだろう。この空間は何よりも変え難いものであると。
私の役目も終わった。早く着替えて帰ろう。
店長、また美味しいコーヒーゼリー食べに来ますね。