第66χ 人の縁とはまこと奇怪なり@




「そんでよォ...ソイツは男を打っちまうのよ!」

窪谷須くんが転校してから一週間が経過した。
最初は人も寄り付かなくて、クラスの一員として少し心配ではあったけれど今じゃすっかり好きな映画の話で盛り上がれるようにはなったみたいだ。良かった良かった。

...なんてことはなくて、現在進行形で私はある人物の鋭い視線に手には変な汗をかいてしまっている。その人物というのは楠雄くんなのだけれど、元凶は窪谷須くんだ。

一週間ずっと一人で過ごして来た窪谷須くんはようやく話しかける相手を探し始め、最初に目をつけたのが相手が楠雄くんだったようだ。
しかし、楠雄くんが誰かと楽しく雑談なぞするはずがない。むしろ、逆に煙たがる方だ。よって一人ひたすらに話しかける窪谷須くんをなんとかしろと言わんばかりにじーっと彼が視線で指示してくる。

私にどうにかしろと言われても...正直なところ彼には恐怖心しかなくて関わりたくないし、それにどうやって話かけたらいいのだろうか。話を聞いている限りVシネが好みのようで、私の得意なジャンルではない。

「窪谷須くん、そういえば学校まだ回ってなかったよね。良ければ案内させてもらえないかな...今後のためにも。」
「え...あぁ、それじゃ頼むぜ。」

ようやく絞り出した話題を振ると見事までとはいかないが食いついてくれた。これで彼を楠雄くんから遠ざけることができるだろう。楠雄くんの表情からもホッとした様子が窺える。お返しに今度、魔美のコーヒーゼリー奢ってもらうんだから!
私は重い腰をあげるように立ち上がると、窪谷須くんを連れて教室を出発した。

「ここが職員室で、あっちが保健室...保健室はお世話になるだろうし覚えておくといいよ。」
「そうだな...何が起こるかわからねぇし。」

窪谷須くんを引き連れて淡々と主要な場所に案内しては説明してゆく。まるでバスツアーのガイドにでもなった気分だ。

「...これで一応全部だけど、何もなければ教室に帰ろうか?ちなみに屋上は立ち入り禁止になってるからあまり行かないようにね。」
「問題ねぇよ、わざわざありがとな。」

今日の窪谷須くんの表情は終始穏やかで安心した。また機嫌を損ねたらロッカーやら投げられるんじゃないかと、こちらは気が気ではない。でも、これでようやく私の役目は終わる。あとは楠雄くんに任せることにしよう。

教室の戻る途中で同じく教室に戻ろうとする海藤くんにバッタリ遭遇してしまった。

「どうだ...?この世界に少しはなれたか?俺の名は漆黒の翼だ。」
「漆黒の...翼?!...よ、よろしくな。」

あの窪谷須くんが海藤くんを前にして言葉に詰まっている。確かにいきなり漆黒の翼なんて言われたら一般人なら戸惑うよね。
念のため、窪谷須くんの耳元で彼は中二病だとは伝えておいた。彼が中二病という言葉を認識するかどうかはまったく別の問題だけれど。

「ダークリユニオンの目覚めは近い...我々は早急にグランドクロスを完成させ...」
「愚乱怒黒巣ってもしかして伝説の...」

あのグランドクロスもこの愚乱怒黒巣も知らないけれど、恐らく二人のイメージするぐらんどくろす...なるものはまったく別物なのだろう。つまりは二人の話は奇跡的に合致しているということだ。

意気投合したような二人を置いて教室に戻ろうとすれば、ガバッと後ろからのしかかるような重みに前のめりになって転びそうになってしまった。

「仁子ちゃん、みっけ!」
「お、重いよ...鳥束くんっ。」

背後から抱きついて来たのは勿論、鳥束くん。
今日も元気そうで何よりだけれど、窪谷須くんが変な目で見てるから!
ようやく離れてくれた鳥束くんはじっと物珍しそうに彼を見つめている。隣のクラスじゃ中々会う機会もないからね。

「おーアンタが転校生っスか?!俺も途中から転校生してきたんスよ。隣のクラス!」
「え?...あぁ。」

鳥束くんも転校生だった...なんて頭の片隅で思いながら二人を見つめていれば、鳥束くんの人懐っこい性格のおかげで何だか仲よさそうに見える。

「前の学校に比べてどうッスか?可愛い子居ましたー?ねぇー?」
「いやー、僕がいたところは男子校だから。」

その言葉を聞くや否や鳥束くんは真顔になるとスッと去って行ってしまった。ちょ、置いて行かないで!
ちらりと恐る恐る窪谷須くんの様子を窺えば、MK5だよ。マジでキレる5秒前というやつだろうか。顔には青筋がこれでもかというくらい浮き上がっている。誰か...彼の怒りを鎮めてください!




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