第65χ 破天荒参上!窪谷須亜蓮A




昼休み、職員室に用があって廊下を歩いていると、前を窪谷須くんがいて、向かいから歩いて来た人に対していきなりメンチは切るし、高橋くんと肩がぶつかっただけで消火器を掲げて殴りかからんとしている。振り下ろす寸前で、我に返ってちゃんと消火器を戻してくれたけれど。

私はここでようやく確信した。窪谷須くんは間違いなくヤンキーだ。けど、普通の生徒を装おうとしていたから元なのかもしれないが...何にせよ、彼に近づいたら危険ということがよくよくわかった。

今度は燃堂くんが、いつものようにフラフラとこちらに向かって歩いてくる。立ち止まると窪谷須くんに声をかけたりして、こちらには聞こえないけれど何かやりとりしているみたいだ。燃堂くんには拳振り上る様子もないし、彼とは気が合う何かがあるのだろうか。

燃堂くんをやり過ごして、先に進むと廊下の突き当たりまで来た。その突き当たりを曲がれば、すぐ下り階段がある。何だか窪谷須くんを尾行しているみたいになってるけど、決してそうではない。偶然にも彼が前を歩いていただけだ。

窪谷須くんが角を曲がって見えなくなったことにホッと安堵したのもつかの間、角を曲がるとそこには生徒を恐喝する金剛先輩と、近くにあったロッカーを振り上げている窪谷須くんの姿があった。

「俺の前でゴミみてェな真似してんじゃねェぞカスがァアー!!」

金剛先輩はあっという間に窪谷須くんによってボコボコにされて逃げるように去って行ってしまった。金剛先輩より華奢な身体なのにどこからそんな力が出て来るのだろうか。
ここは危険だ...もう1つの階段から降りよう。

「さっきから俺の後ろをついて回ってるお前...気分悪くて仕方なかったんだよなァ...」

窪谷須くんに見つからないように、こっそり足音を消しながら離れようとするも時すでに遅し。ドンッと背後から壁に手を付かれてしまえば、もう身体は強張ってそこから動けない。こんな壁ドンまったくときめかないから!

「あ...あの、わ...たし、職員室に...っ」
「ンなことより...全部見てたんだよなァ?」

窪谷須くんのドスの利いた声にひっ!と小さな声をあげるもの、この場から逃してもらえる様子はない。ストレスの限界に達した窪谷須くんに何されるかわからないから怖いし、人にこんなところ見られたらどうしよう色々考えてしまって頭はパニック寸前だ。

「誰かに俺のことチクりやがったらタダじゃ済まさねェ...いいな?」

涙目でコクコクと何度も頷けば、窪谷須くんはようやく解放してくれた。彼が離れてホッとするも、ふと視界に留まったのは彼の傷。口元には痛々しく血が滲んでいる。金剛先輩との喧嘩で負った傷だろう。私は自然と窪谷須くんに近づくとポケットからハンカチを差し出していた。

「ひ、秘密にするなら...か、顔の傷...っ。」

懸命に絞り出した声...彼に聞こえただろうか。恐る恐る顔を上げて彼の様子を窺えば、驚いたように目を見開いて私を見下ろしている。

「...サンキュ、お言葉に甘えて借りさせてもらうぜ。」

窪谷須くんはハンカチを受け取ると何事もなかったかのように教室の方へ行ってしまった。緊張感から解放されれば、急に力が抜けてヘナヘナと座り込む。
遠くから昼休み終わりの予鈴のベルが聞こえて来る。職員室に行こうと思っていたのにな...それにこの脚じゃすぐに立てそうもない。

転校生がヤンキーなんて、これからどうなってしまうのだろうか。口から出てくるのはため息ばかり。
私の平穏な学校生活は何処へ...。





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