第64χ 人混みでのスリにはご注意を!@




私は今、一人で近所の祭りに来ている。
会場はすでに多くの人で賑わっていて、夜にもかかわらず出店が並ぶ通りは活気で溢れていた。

本来なら知予ちゃんと来る約束をしていたのだが、その日が偶然にも知予ちゃんの家族旅行と被ってしまい、一緒に行けなくなってしまった。
代わりに照橋さんを誘うべきか悩んだけれど、二人で出歩くほどは仲良くはないし、何より人混みに入っていくのに彼女は連れていけない。さらに面倒な人集りが出来てしまう可能性があるからだ。

そのような理由から先程も述べたように私一人で祭りを満喫中だ。祭りというより出店目当てなのだが。目良さんではないけれど、出店で出る食べ物はどれもこの時期だけしか食べられないものばかりで、ついつい色々と買ってしまう。特にりんご飴は私のお気に入りで毎年欠かさずに買っている。

りんご飴の屋台を探しながらキョロキョロと辺りを見回していれば、何人か見知った顔を見つけることができた。見つけたところで声をかける気は毛頭ないのだけれど。

最初に見つけたのは燃堂くん。

「タコが入ってねェんだよ!!このたこ焼きがよォ!」
「どうせ食ったんだろー。」

どうやら屋台の人と揉めているようだ。たこが入ってないたこ焼きは焼だろ!などと、続けて聞こえてくる。燃堂くんが持っていたたこ焼きには既に齧った跡が見える。店員さんの言っていた通り、タコが入っていたことに気づかなかったんじゃないだろうか。燃堂くんなら十分にあり得ることだ。

燃堂くんをすり抜けて、次に見つけたのは海藤くん。

「悪くない銃だ...22口径ってところか...ボルトアクション方式は久々だな...トリガーストロークもちょうどいい...」

さらりと銃について語る様子に少し驚いてしまった。それと同時に、懸命に本で調べている海藤くんが頭の中に浮かんでくる。海藤くんは中二病だけれど、努力家だからね。けど、それはコルク銃だよ海藤くん。22口径のわけがない。

「わーっしょい!!わーっしょい!!」

背後から掛け声と共にやって来たのは灰呂くん。神輿の上を陣取って、祭りの盛り上げに貢献しているようだ。白いふんどしと半被姿がなんとも眩しさを感じてしまう。祭りらしさに心躍るものがあるけれど...正直暑苦しい。私はその神輿の列から逃げるように隙間の道を抜けて避難した。

そこでようやく見つけたりんご飴の屋台。
先客がいるようだが、その客に見覚えがある...あの髪飾りは私の記憶している限り一人しかいない。楠雄くんだ。彼もどうやら祭りに来ていたらしい。私と同じ人混み嫌いなのに珍しいこともあるものだ。
楠雄くんはりんご飴を買おうとしていたようだが、身体を弄って財布を探すような動きをしている。

「おじさん、その1つともう1つ、りんご飴ください。」
「はい、毎度ね。」

横からひょこっと顔だして2個分のりんご飴の代金を払えば、1つを楠雄くんに差し出した。楠雄くんは驚いた様子で私をじっと見つめて来る。...何か変なことをしてしまったのだろうか。

「りんご飴、食べるよね?どうぞ。...それにしても財布忘れちゃったの?人混みでまさかスられたってことはないよね?」
「財布がねぇよ!!盗まれた!!」

突然遠くから聞こえて来た声にピタッと固まる楠雄くん。...もしかして、本当に?

「ぬ、盗まれたなら交番に行かなきゃ!」

促すように声をかけるも、彼は交番とは逆方向にズイズイと歩き出してしまった。犯人を見つけてとっちめる気なのだろうか。私は慌てて楠雄くんの後を追いかけた。




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