第63χ レモンサイダーマンとコーラ男爵A




「ふおー!!ふおー!!サイダーふおおおお!!」

改造人間サイダーマン2号が再生されるや否や興奮MAXの遊太くんの声が部屋中に響き渡る。咄嗟に私は遊太くんにしーっと合図を送れば静かにはなるも、そのキラキラとした瞳はすぐに爆発しそうな勢いだ。

一旦は落ち着いた遊太くんを横目に再度テレビに目を向ける。ストーリーはよくある特撮もので、怪人が市民達に悪さをしているところに、ヒーロー...ここでは改造人間サイダーマン2号が現れて、暴れていた怪人をやっつけるというものだ。

レモン汁をかけてくる怪人の前に颯爽と改造人間サイダーマン2号が現れれば、再び遊太くんのテンションは急上昇してゆく。

「ぬふおおおおお!!どーなるのかな!?ねぇ、勝てる?」

後ろ振り返って楠雄くんに問いかける様子に思わずふっと笑ってしまった。何笑ってるんだと楠雄くんに睨まれてしまったけれど、二人といる空間が何とも微笑ましく感じられてしまう。家族を持つとこんな気持ちになるのだろうか...なんて頭の片隅で考えてしまった。

そんなやりとりを眺めているうちに改造人間サイダーマン2号は、改造人間レモンサイダーマン2号となって怪人をやっつけてしまった。怪人を倒す際にダイレクトマーケティングを怠らないところが逆に清々しく感じられてしまう。ちなみにレモンサイダーはお近くのコンビニで税込148円で売られているそうだ。みんなコンビニへ急げ!!...宣伝はこれでいいだろうか。

「やったね、改造人間サイダーマン2号は勝ったんだね!!レモンサイダーが飲みたくなったよ!!」
「ほらよ。」

遊太くんの言葉に合わせたかのように後ろからスッと渡されたレモンサイダーを受け取って振り返れば、そこには燃堂くんがいた。

「いやー4本買っといてよかったぜー。」
「ね、燃堂くん?いつの間に...気付かなかったよ。」

突如燃堂くん目掛けて飛んで来たレモンサイダーが顔にヒットすると、燃堂くんは後ろに吹き飛ばされてしまった。そりゃ音もなく家に侵入されたら、そんな反応にもなるよ。...流石にペットボトルは痛そうだけれど。

「せっかく買って来てくれたのに乱暴はダメだよー!大丈夫?お兄ちゃん...っ!?」

倒れた燃堂くんを守るように立ち塞がった遊太くんだけれど、燃堂くんの顔を見るなり泣き出してしまった。...顔、怖いもんね。私も最初見た時絶対絡んじゃいけない人と思ったくらいだ。今じゃ燃堂くんが優しい人だって知っているから怖くはないけれど。

「改造人間にサイダーマン2号!やっつけてよー!!怪人コーラ男爵が現れたー!!」
「...コーラ男爵?」

楠雄くんにしがみつく様子を眺めながら指差す先に目を向ければ、これまた特撮定番の悪役のお仕置きシーンが流れている。そこに出て来た親玉が...なるほど、燃堂くんにそっくりだ。
燃堂くんもコーラ男爵をリスペクトしてのあのちょび髭らしい。...うん、似合っていると思う。高校生には見えない仕上がり具合で。

「そっか!それで怖がってたんだな!ほら、大丈夫だぞ坊主...ほぉーら、怖くなぁーい。」
「うわーん!!コーラ漬けにされるぅー!!」

燃堂くんが笑わせようと向けた笑顔が逆効果だったようで、遊太くんは泣きながら家に帰ってしまった。流石に私も怖くて心臓一瞬止まるかと思ったよ!白目はだめ、絶対!!

遊太くんも帰ってしまったし、燃堂くんも楠雄くんの手によって追い出されてしまった。私一人いても楠雄くんの邪魔になってしまうだろう。

「遊太くんも帰っちゃったし私も帰るね。また、ね?」

お邪魔しましたと一礼の後、去り際に手を振れば、楠雄くんも控えめに手を上げて返してくれた。

夕方にもかかわらず外はじんわり蒸している。
私達の夏休みはまだ始まったばかりだ。





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