「お姉ちゃーん!!遊ぼー!!」
インターホンの音色と共に聞こえてきた元気な声に扉を開けると、そこには目をキラキラと輝かせた遊太くんの姿があった。
そういえば朝お母さんが出かけ際に、遊太くんが来たら面倒見てくれって言っていたのを思い出した。
「うん、遊ぼうか...で、何して遊ぶの?」
彼の身長くらいに背を低めて視線を合わせれば、私の腕をグイグイと引っ張ってどこかに連れて行こうとしている。子供だけれど、流石男子だけあって、その力強さには目を見張るものがある。そのまま引っ張られて行けば遊太くんが向かった先は向かいの家。つまりは楠雄くんの家にあたる。
よいしょとインターホンに懸命に手を伸ばす様子はなんとも微笑ましい。もしかしたら私は割と子供が好きなのかもしれない。
「お兄ちゃーん!!遊ぼー!!」
遊太くんの呼び声にゆっくりと扉が開かれると、そこには部屋着姿の楠雄くんの姿があった。私達を視界に入れると少し目を開いて驚いている様子。まさか私まで一緒に来たとは思わなかったのだろう。それでも楠雄くんは嫌がる様子はなく、家へ招き入れてくれた。
「改造人間サイダーマン2号こんにちは!!お邪魔します!!」
「...じゃあ、私もお邪魔します。」
ピシッと敬礼を決めた後に靴を脱ぎ捨てるように家に上り込む遊太くんの靴を揃えてあげれば、私も続いて中に入って行く。
上がり込んで遊太くんが最初に向かったのはなぜかキッチン。おもむろに水道から水だしてペロリと舐めれば、違うというように首を傾げている。
「あれ?蛇口からサイダー出ないよ?」
うん、出ないよ?
遊太くんの中では楠雄くんは改造人間サイダーマン2号らしいので、改造人間サイダーマン2号と同じことがこの家でも起こると思い込んでいるのだろう。
彼曰く、改造人間サイダーマン2号はご飯を炊くのもお風呂も、歯磨きするのも全部サイダーを使っているとのこと。そんなことしたらご飯は炭酸で柔らかくなりすぎて、お風呂も炭酸でチリチリするだろうし、炭酸と歯はあまり相性がいいとは言えないから歯磨きには適さない気がする。
「トイレの水もサイダーなんでしょ?泡の力でこのびついた汚れも落とすって!」
それは知らなかった。確かにそれならば効果がありそうな気がするけれど、サイダーで流石にウォシュレットは使いたくないなと思う。単純に痛そうだ。
「遊太くんは本当にサイ...改造人間サイダーマン2号が好きなんだね。お姉ちゃん、知らないからもっと教えて欲しいな。」
「それなら改造人間サイダーマン2号のブルーレイあるから一緒に観ようよ!」
差し出されたプルーレイを手に取って見てみれば、裏面には改造人間サイダーマン2号のストーリーがつらつらと書いてある。どうやら普通の特撮のようではあるが...パッケージの所々に大人のいやらしさが垣間見ることができる。
「楠雄くん、プレイヤー借りてもいい?」
持ち主がこくりと頷いたのを確認すると、ブルーレイディスクを挿入して再生ボタンを押す。
楠雄くんは興味ないらしく、ソファーで宿題の続きを始めてしまった。まぁ...テレビを見ていれば遊太くんもそっちに集中するし、わざわざ相手する必要もないもんね。私もソファーに腰掛けると、改造人間サイダーマン2号とやらを遊太くんと一緒に鑑賞することにした。