第58χ 常夏の楽園-Sunshine Crazy- II A




騒がしさから逃れるように海辺まで来てしまった。
ここに来る途中で照橋さんと夢原さんが突撃練習をしていたようだが、生憎僕はUNOは苦手だ。透明人間になることで彼女達の横をすり抜けてここまでやってきた。

ふぅ...このままで来れば大丈夫だろう。消灯まではここで時間を潰すか。ようやく一人になることができたな。
海辺に備え付けられたビーチチェアに座ろうと近寄れば、隣には既に先客がいた。先客は寝ているようだからさほど気にする必要もないだろう。しかもその先客というのは平凡さんだ。彼女なら起きたとしても騒ぐこともない。

...今日は疲れたな。何気に台風を追い越した時と飛行機を持ち上げた時、制御装置を二回も外しているからな。この調子で残り二日か...。

ふと遠くに二人の男女の姿が見える。
あの髪型は鳥束か。懲りずに女子に告白しているようだ。夕方、ロビーでは平凡さんに言い寄っていたようだが...流石にアイツのゲスさにはついていける気がしない。そもそもアイツの恋愛関係なんて興味はないがな。自身のことでもそんな感情を抱くことすらないのに。

ふと隣に視線を向ければ、こちらに身体を向けて心地好さそうに寝息を立てる平凡さんがいる。不意にあの時の出来事が脳裏を過ぎった。
あれは校舎の屋上で、僕が彼女の記憶を消した日のこと。彼女は最後に僕に好きと言って意識を失った。

あの後、どこまで彼女の記憶が消えたのか僕にもわからない。色々と困惑の表情を浮かべる時もあったが、何とか隠し通しながらもこの日までうまく立ち回ってやっている彼女の姿には眼を見張るものがあった。

彼女は相当苦労をかけさせてしまったと思う。手を差し伸べるべきところもあっただろうが、そうしては記憶を消した意味がなくなってしまう。

ビーチチェアから細くて白い彼女の腕がだらりと伸びている。僕も腕を伸ばしてその腕に触れようとするも、届いて触れ合ったのは互いの指先だけ。身体を動かせば手を掴めるほどにはなるのだろうが、この距離がもどかしくもあり心地よくも感じる。

僕は彼女のことをどう思っているのだろうか。
少なからず...ほんの少しだけだが照橋さんや夢原さん達と異なる感情を抱いているのは確かだろう。
しかし、それを明らかにするべきはまだ遠く先のことになる。それは彼女が僕が超能力者であることを知った上での話だ。まぁそんなことは金輪際ないつもりだが。

疲労に身体がゆっくりと重くなっていくのを感じる。やれやれ...長い修学旅行だ。

ーーーーーーーーー・・・・

「斉木さん!!起きて下さい!!大変っスよ!!」

頭に響くような騒がしい声にうっすら目を開けると、そこには鳥束が焦りの表情を浮かべている。...やれやれ、寝てしまっていたようだ。

「呑気に寝てる場合じゃないっスよ!!」

何だ鳥束、うるさいぞ。それに今は何時だ?早くホテルに戻らないと...

「ホテルを戻して下さいよ!!」

ホテルに戻るだろ。何を慌ててるんだコイツは...。
ゆっくり身体を起こして鳥束が導くままにホテルへと近付けば、そこにはぽっかりと空いた穴しかない。一時間前ほどは確かにここにホテルがあったはずなのだが。

「どうなってんスかアレは!?何でホテルが消滅してんスか!?こんなのどう考えても斉木さんの仕業でしょ!?」

なるほど、おねちょしちゃった...。





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