第58χ 常夏の楽園-Sunshine Crazy- II @




ホテルに到着後、ロビーにて先生からの注意点をいくつか受けてようやく解散と指定された部屋へ照橋さんと知予ちゃんと向かう。

「やっと見つけた!ずっと探してたんスよ!!」

背後から聞き慣れた声がして、振り向いてみれば案の定声の主は鳥束くんだった。手をブンブンと振ってその瞳はキラキラと輝いている。

「せっかく二泊三日同じ屋根の下っス。夜はこっそり抜け出して仁子ちゃんのところ遊びに行くっスよ!」
「いや、私だけじゃないからね。他の女の子達に迷惑になるでしょ。」

ある出来事以来、彼は私を見つける度にまるで犬のように近寄ってくるようになった。そのせいで彼の背後には尻尾が見えるような気がするし、何より周りの視線が痛い!やはり、そういう関係ではないのに勘違いされるのは良い気分はしない。...ほら、照橋さんも知予ちゃんも驚きに目を丸めている。彼女達に見られるのは初めてだったけ。

「...鳥束くん、仁子ともしかして...」
「そう、彼女にゾッコンなんっス。何たってありのままの俺を受け入れてくれたのは仁子ちゃんだけっスからね。」

周りで聴いていた女子がキャーッと黄色い声を上げて興奮し出している。あの時はつい同情の気持ちで言ってしまったけど、こうなるなんて思わなかった。戻れるならあの時に戻りたい。

今日は長時間の移動で疲れていることもあって、あまり人と関わりたくない気分だ。周りの女子と楽しげに話す鳥束くんを置いて一人逃げるように部屋へ向かった。
勿論、部屋に戻ってから同室の女子達に根掘り葉掘り聞かれて休む暇も、窓から見渡せるオーシャンビューを楽しむ暇もはなかった。なんで女子ってこういう恋バナが好きなのだろうか。

18時になると制服から着替えて大食堂に向かう。食事はここで全員一斉に摂ることになっている。
食事をしながら、知予ちゃんがしおりで明日の予定を確認している。確認するのは良いけれど口に箸を咥えたままはやめなさい!
因みに明日の予定は、パイナップル園に行った後に日本最大の水族館である美ら海水族館に向かうとのこと。水族館は私も楽しみにしていたところであって、ゆっくり泳ぐ魚を堪能したいところだ。

「でも、もう1日目も終わりかー。なんかこのままあっという間に終わっちゃいそう」

照橋さんが珍しくネガティヴな発言をしている。確かに楽しいことほど時間の進みは早く感じるし、きっと彼女の言うようにあっという間に終わってしまうのだろう。だから、1つ1つの出来事を私は大切にしていきたいと思う。

「何言ってるのよー。修学旅行はこれからが本番じゃない。まだ1日目は終わってないわよー。」
「それもそうね、フフフ。お風呂行こっか。」

二人して何かを企んでいる様子に、海藤くんが怪訝な瞳で彼女達を見つめている。大したことはない。自由時間に男子の部屋に遊びに行こうというだけだ。夕食前に話しているのを偶然にも聴いてしまった。私は勿論、参加するつもりはない。早く温かな布団で眠りたいし。

夕食を終えた後は、大浴場を満喫して人目を避けるように私は一人外へ抜け出した。先生には夜は抜け出すなって言われていたけど、どうしても一人落ち着く場所が欲しかった。

備え付けられているビーチチェアに腰掛けて暗闇の海をぼんやり眺める。引き込まれそうな怖さはあるけれど、温かな風と穏やかな波の音が心地いい。
昼間の騒がしさが嘘のように心が穏やかになるのがわかる。少しずつやってくる眠気に身を任せるように私はゆっくりと瞼を閉じた。





*まえ つぎ#
もどる
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -