第57χ 常夏の楽園-Sunshine Crazy- I @




空港を出て、バスに揺られること約一時間。
私達が最初にやってきたのは海辺に面した所にある食事処。その周辺にはお土産屋さんも多数並んでいて、買い物も楽しむことが可能だ。

バスを降りれば先生から長めの昼食時間を与えられた。ただし、ここも観光客で賑わっているため単独行動をして周りに迷惑をかけないようにとグループ行動の制約付きだ。

「やっと着いたぜ沖縄...長い道のりだったな。」
「そーだな、腹減ったから飯食おーぜ。」

燃堂くん達はキョロキョロと辺りを見回して何を食べようか探し始めている。そんな私はぼんやりと海を眺めていた。バスに乗っていた時はどうも落ち着かなくてゆっくり眺める時間がなかったからだ。
さざ波が寄せては引いてゆく。風に寄せてやってくる磯の香りが鼻をくすぐってくる。普段見る海とはまた違った輝きを見せる海の美しさに、雲の上と空と同様心惹かれるものを感じる。沖縄の方言では海のことを美ら海と呼ぶらしい。バスの中で海藤くんに教えてもらった。美ら...美しいという言葉にまさにぴったりだと思う。

「仁子、ぼーっとしてないでご飯食べに行こうよ!」

遠くから知予ちゃんの呼び声が聞こえる。その声に振り返れば、目の前には沖縄そばののぼりが目に留まった。私は逸れないよう小走りで駆け寄れば、みんなとそのお店に入っていった。

注文してから数分後に、6人分の沖縄そばが運ばれてきた。太めの麺に澄んだ黄金色の出汁がなんとも食欲をそそる。

「ほーこれが沖縄そばっつーんか。何だか全然そばじゃねーな。」
「そばと言ってもそば粉使ってないからね。味はね、ラーメンとうどんの中間みたいな感じ。」

知予ちゃんと燃堂くんが沖縄そばについて会話が盛り上がっている模様。珍しい組み合わせなのが新鮮に感じる。2人以外は既に沖縄そばを食べ始めている。食べないと伸びちゃうもんね。
私も箸をとって太めの麺を口に運んでゆく。うん、美味しい。出汁もしっかり出ていて、モチモチとした食感のそばの歯ごたえが私好みだ。みんなも美味しそうに頬を緩ませている。
これは余談で、知予ちゃんの豆知識に付け加えると、沖縄にはソーキそばというものも存在する。あれは沖縄そばの一種であるだけで本質は変わらない。乗せる具材にソーキという豚のあばら部分の肉を使うとソーキそばになるという。一般的なそばやうどんも具材によってきつねや、たぬきと呼ばれるのと同じだと思ってくれるとわかりやすいかもしれない。

「うん!!まーさん!!こりゃいっぺーまーさんだぜ!!」

ここでも海藤くんの沖縄方言講座が止まらない。そろそろみんなもクドイと言わんばかりの顔をして彼を見つめている。バスの中で沖縄方言の本を読んで勉強していたようで、色々と披露してくれた。
彼の言っていたいっぺーまーさんとはとても美味しいと言うらしい。その地域の言語を楽しむのも旅行の醍醐味だとは思うが、無理に使う必要はまったくない。沖縄でも方言を使える人もかなり減ってきているとバスガイドさんが言っていたし。

「す...すごいねー海藤くん...ハハッ」
「うちなーぐちが解らなくても...なんくるないさー!!俺が教えてやるよ!」

流石に完璧美少女照橋さんの顔を引きつらせて、さらに乾いた笑いを引き出す海藤くんはもしかしたら大物になるかもしれないとほんの少しだけ、思った。ちなみに、うちなーぐちと言うのが沖縄弁で、なんくるないさはなんとかやるさという意味だ。面倒だから先に言っておくと、次に出てくるくわっちさびたんというのはごちそうさまだ。

「はー!!くったくった!!」
「くわっちさびたん」

私達は沖縄そばで腹を満たすと、残りの一時間を周辺の散策に充てることにした。





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