第56χ 墜落不可避?!前途多難な飛行機移動@




空港に到着して期待に胸を膨らませながらワイワイと騒いでいたのが15分前。
天候の悪化のため、運行見合わせになったことを聞かされたのが10分前。

周囲はまるで、全員一斉に身内の危篤でも聞かされたような顔をしている。神様はなんて非常なことをしてくれたのだろうか。天候は人の手でどうにかできるものではないから受け入れるしかないのだけれど。

空気が異常な程に重たい。みんなとても楽しみにしていたことだったから尚更なのだろう。話しかけるのも憚られる雰囲気に息が詰まりそうになる。流石にこの雰囲気の中で優雅に読書なんてできるわけがなく、少しでも気が紛れるように私はゆっくりと辺りを見回してみることにした。

まずは海藤くん。
天候を聞かされる前は、修学旅行なんて下らないやらサボる等々、中二病特有の俺とみんなは違うのだと言わんばかりの雰囲気を出していたけれど、今は椅子に三角座りして顔を膝に埋めている。時折見えるその瞳は生気を失ったかというくらい曇っていて、目の下にはクマがくっきり残っている。海藤くんは本当に修学旅行を楽しみにしていたことを窺い知ることができる。

続いて知予ちゃん。
数分前は鞄いっぱいに詰めたお菓子をみんなに披露していたけれど、今は無心でそのお菓子を食べている。彼女は食でストレスを発散するタイプらしい。彼女が太らないことをただただ祈りたい。

「運行見合わせだってよ!」

大きめの声がする方に視線を向けてみれば、燃堂くんがケタケタと笑っている。彼が言っていることを口にするのは少し品がないように感じられるので割愛させてもらおう。燃堂くんはいつもと変わりないように見えるけど、普段はあんな笑い方はしない。最近一緒にいる機会が増えたせいか、少しの違いもなんとなくわかるようになってしまった。燃堂くんも行けないことが辛いんだね。

燃堂くんから視線を右方向に進めてみれば、そこにいたのは照橋さん。彼女は周りよりかは露骨に出していないけれど、その顔はやはり優れない。せっかく楠雄くん達との班行動掴めたのに、今度知予ちゃん誘って美味しいもの食べに行こう。

「まだ欠航と決まったわけじゃない!!こういう時こそみんなで力を合わせるんだ!!」

流石はMr.ネバーギブアップ。けれど、天候まではどうにかできるものではない。そのせいで今回は誰も灰呂くんのノリに合わせようとする人はいなかった。こればかりは仕方がない。天候を操れる人間は私は1人しか知らないし。君に似た情熱的なテニスプレイヤーだ。

最後に楠雄くんを探してみるも、どこを見てもその姿は見つけられない。さっきまでに向こうでぼんやり立っていたはずなのだけれど...お手洗いでも行っているのだろうか。

「オイ!!飛行機飛ぶらしいぞ!!」

1人の男子生徒が声色高めに報じた吉報に、お葬式ムードの空港は一気に賑やかさを取り戻して行く。こんな短時間で、人の感情の起伏を見る機会なんて早々ないだろう。少し貴重な場面に立ち会えて少し得した気分になってしまった。

遅れを取り戻そうとみんな足早に搭乗の手続きに移動し始めた。私は落ち着いてから行こうかとその場に立ち尽くしていると、背後に人の気配を感じ振り返れば、そこにはびしょ濡れの楠雄くんがいた。

「ど、どうしたの!そんなにびしょ濡れになってっ」

旅行鞄から大きめのタオルを取り出すと髪と頬をそっと拭いてあげる。避ける様子がないみたいだから嫌ではないみたいだ。よかった...って、以前もこんなことあったような気がする。突然ズキンとやってきた頭痛に眉を寄せれば、楠雄くんが心配そうに私を見下ろしてくる。

「...私は大丈夫だから、ちゃんと身体拭いて。向こうで風邪引いたら楽しめないしね?」

心配かけまいと笑みを浮かべるとポフッと一瞬だけ頭に触れた大きくて優しい手に思わず頬が緩みそうになる。彼の優しさで自然と頭痛も引いていく気がする。

「オーイ、早くしねぇと飛行機行っちまうぞ。」
「うん、ごめんね。今行くよ。」

海藤くんの呼び声にハッとすれば、荷物を抱えて慌てて海藤くんと楠雄くんを追いかけた。





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