第100χ サブリミナル100 @




「...百円玉?」

急にしゃがみ込んだと思ったら、楠雄くんの手に握られていたのはありふれた百円玉。

誰が落としたのだろうと辺りを見回しても、落とし主はおろか私達以外に通行人がいない。自販機もないところで硬貨を落とすなんて、持ち主は余程のおっちょこちょいな人だったのだろう。

楠雄くんはラッキーだとはしゃぐ燃堂くんと交番に届けろと言う海藤くんをよそに、拾得物である百円玉をポケットに入れてしまった。...うん、少額だしね。楠雄くんだってそんな気分になるもあるよね。

今日も四人、学校終わりの寄り道真っ最中だ。
今回は珍しく海藤くんの提案により、出来て百日くらいの百貨店にぶらり立ち寄る予定だ。
やはり人間、出来立ての店には興味が湧くもので今回もしお気に入りのお店を見つけたら通いたいと思う。

百貨店に周辺になると住宅街の通学路とは違い人ごみで溢れている。ザッと数えて百人はいるだろう。そんなに繁盛している百貨店なら期待していてもいいはずだ。

『百人一首大会に参加する方はこちらに御集りください。』
「うっしゃー!!行くぞ!!」
「百戦錬磨の実力見せてやるぜ!!」

突然のアナウンスに辺りが騒めき始めたと思えば、百貨店周辺に集まっていた人達が隣の建物に流れて行く。どうやら百貨店に用があったわけではないらしい。

それにしても百人一首にこれだけの競技人数がいるなんて思いもしなかったから、これが私の中で今日一番の驚きかもしれない。
気を取り直して四人で百貨店の中へ。

「おめでとうございます!!」
「あなた達が100万人目のお客様です!!」

中に入った途端クラッカーの破裂音が響き渡り、入り口付近に構えられていたくす玉が割られて、私達の周囲は紙吹雪とクラッカーのギミックである紙紐で凄いことになっている。
ふと上を向けばくす玉から垂れ下がった幕には祝100万人目の文字が書かれていた。

こんなことがあるだろうか。
私はこの偶然にも驚いているが、開店百日で百万人の集客力があるこの百貨店に驚いているのだ。年間でも百万人の集客数を集めるのは至難の技だと言うのに、この百貨店には一体何があるのか...益々興味惹かれるものがある。

「おー!これがお客様は神様っつーヤツか。」
「違ェよ!選ばれたんだよ!!」

うん、どっちも違うよね。これは偶然だから。
燃堂くんも海藤くんも嬉しそうに滅多に出くわす事のできない事態に興奮を隠しきれない様子。
そんな中でいつもと変わらないのはもちろん楠雄くん。彼はこんな記念すべき事であっても平常心を保っていられるのは流石にだと思う。

百貨店の奥から出てきた店長と社長に祝いの言葉と共に奥に招かれると、そこに並べられていたのは百貨店人気商品100アイテム。
どうやらプレゼントしてくれるようだ。なんとも気前が良い店だろうか。これには三ヶ月で百万人も頷ける気がする。ただ、サービスしすぎて早々に閉店しないことだけを祈りたい。

私もお言葉に甘えて100アイテムの中から欲しいものを選び出す。流石に100アイテムもあると迷ってしまう。
百万語収録の百科事典に名酒の百年の地獄。それに100℃まで測れる温度計付き百葉箱。

「どれにしようかな。楠雄くんは何にす...楠雄くん?」

はしゃぐ私達をよそに楠雄くんは顎に手を添えて何かを考えている。まさかこの気前の良さが詐欺だとか...相手の視界に入るように首を傾げながら覗き込むと、何事もなかったかのように物を選び始めた。

私はそんな彼に違和感を覚えながら、みんな一つ商品を手に取るとそのまま百貨店を後にした。





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