第99χ サプライズはPriceless(後編)A




おかしい。
何もかもがおかしい。

みんなおじさんのことを斉木って呼び捨てにするし、そもそも楠雄くんの誕生日と勘違いしたまま祝おうとしていたのではないか。
おじさんはおじさんで楠雄くんのような振る舞いをしようとしているし。似ているかどうかは別として。
お互いが噛み合わずにチグハグとしている。それにもかかわらず、会話が成り立つのはなぜだろうか。

私が一人モヤモヤしている間に、おじさんを囲んでの誕生日パーティーが始まってしまった。あっているのに間違っていて何とも気持ちが悪い。

私の目が、認識が間違っていたのか...今更違うとか指摘しても場の雰囲気を乱してしまうだろうし、私は口をキュッと結んで大人しくみんなの動向を伺うことにした。

みんなはこの場の違和感なくパーティーがどんどんと進行して行く。今はみんなが用意したプレゼントを披露して行くターン。

知予ちゃんがふふんと自慢げに鼻を鳴らすと背中から出てきたのは手作りのケーキボックス。
ワクワクとしたみんなの視線を一点に集めながら取り出されたケーキボックスの蓋を開けてみれば...先日見たデザインは見る影もなかった。

「...そんな...うまく出来たのに」
「...運んでる時に潰れちゃったんだね...」

余程手間をかけたのか、知予ちゃんと照橋さんはがっくりと肩を落としている。そんなに手間をかけたならもっと丁寧に運べばいいのにと水を差すのは野暮なのだろう。

すかさずフォローに入る海藤くんと米良さん。
こういうところに友達の優しさに心が温かくなるのを感じる。そんなこんなでみんなでわちゃわちゃ言い合いをしていると照橋さんの一声にみんなでケーキに目を向けた。

するとどうだろう、ケーキはみるみる内に元の形に戻っていく。こんなことがあるのだろうか。

「良かった!ちょっと潰れてただけだったのね!!」
「スポンジが反発して元の形に戻っていくわ!」

いやいや、いくら反発すると言っても割れたデコレーションまで戻るだろうか。みんなはそれで納得しているみたいだけど、私はこの現象に目眩を感じてしまった。この感覚、どこかで感じたことがあるような...。

「ちょっとお手洗い借りてもいい...かな。」
「え、あぁ...廊下の右手にあるから。わかるよね。」

私はあまりの衝撃に落ち着きを取り戻そうと部屋を出てお手洗いに向かう。手を洗いながら少しずつ落ち着きを取り戻していけば、気を取り直してみんなの部屋へ向かおうと脚を運んだ。

ふと脳裏に浮かんだ一つの疑問。
当の本人である楠雄くんはどこにいるのだろうか。偶然にも目に止まったのは二階へと続く階段。
その先に彼がいるような気がして、私の足は自然と彼がいるだろう二階へ脚を運んでいた。

「やっぱりいた。」

廊下でしゃがみこんだ彼を見つけるとホッと安心したのを感じながら、ゆっくり歩み寄って行く。楠雄くんはどうしてわかったと言いたげに、私の顔を見つめたまま目を丸めている。

「みんな勘違いしてるけど、楠雄くんの誕生日を祝うために来たんだから少しは顔出さない?」

首を傾げながら手を差し出すと、嫌だというよう視線を逸らされてしまった。それもそうだ。そもそも楠雄くんは人が多いのは苦手だし、それが勘違いで集まったものなら尚更だ。

けど、それは違う。
楠雄くんがみんなの前に出たがらないのはみんなに感謝する気持ちがあるから。みんなを傷つけたくないから。本当に優しい人。そんなところも愛おしい。

「大丈夫...誰も傷ついたりしないよ。だから、行こうよ。」
「行ってきなさい、楠雄。」

いつの間にか珍しくキリッとした父親の姿をしているおじさんが背後にいた。楠雄くんもおじさんの言いたいことを悟ったかのようにやれやれとため息を吐き出せば、差し出した私の手を掴んで立ち上がる。
そしてみんなのいる部屋へ。

「おっ!遅ェーぞ相棒!」
「パーティーの続きだ!」

みんなの笑顔が私達に向けられた。
楠雄くんの方に視線を向けると、彼の口元にもうっすらと笑みが浮かんでいた。

The END





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