第94χ ψ果ての結縁地@




家から電車で1時間半
飛行機で2時間
電車で2時間半
バスで45分

様々な交通機関を乗り継いでたどり着いた先は彩波手遊園地。

こんな遠方になぜ私がいるかというと、とある人物に誘われたからだ。その本人は私の隣で遊園地をどこか懐かしげに見上げていた。

そう、楠雄くんだ。
なんでこんな場所を選んだのか。近くの遊園地ではダメだったのか。私の中の疑問は尽きることがない。けれど、私の疑問を全て彼にぶつけると1日があっという間に終わってしまう。私はぐっとその疑問を飲み込んだ。

「...来たはいいけど、本当にここ?」

同じように入り口から見上げてみると、視界に広がったのは遊園地というより廃墟だ。
金属でできていただろうものは塗装が剥げて、錆がどこかしこにも見受けることができる。更に周囲にはカラスもやたらに多く、遊園地とは正反対な雰囲気を醸し出していた。
地面にはこの遊園地のマスコットキャラであっただろう象の頭部が転がっていた。その愛らしい右目は抉れており、昔は子供達に人気のキャラだっただろうに...今は見る影もない。

しかし、そんなところにもチラホラだが人はいるようで、楠雄くんは慣れたように受付でチケットを購入して私に渡してくれた。...どうやら行くしかないようだ。私はそのチケットを握ると意を決して遊園地に足を踏み入れた。

「...えっと、何か乗る?」

ガツンと大きな音を立てて側に落ちて来た一本のネジに恐怖を感じながら、恐る恐る楠雄くんを見つめるも彼は躊躇いもなくある場所へ進んで行く。私も彼に続いてその場所へ。

そこは遊園地の目玉であろうジェットコースターだ。その線路は蛇行していたり、ループもするようでジェットコースター好きにはたまらないコースとなっている。
乗り込もうと進むと、入り口には何やら机に筆記具が置かれている。楠雄くんの後ろから覗いてみると、それは誓約書。私はこの誓約書をテレビでしか見たことがない。それも海外でバンジージャンプをするときのだ。

そんなものを書いてまで乗る必要があるのだろうか。益々彼の思考が読めなくなってくる。が、ここまでわざわざ来たのだから楽しむしかない。私も誓約書にサインするとジェットコースターに乗り込んだ。

乗り込んだのはジェットコースターの最前列。景色が一番楽しめるところであり、またその反面恐怖も一入に感じられる場所である。

「ジェットコースターなんて乗ったの久々かも。怖いけどワクワクするね...って、楠雄くん?」

ゆっくりと坂を登って登頂を目指すコースター。何気ない会話を振ってみれば、いつの間にか私の前に差し出された彼の右腕。
そんなに怖いものなのだろうか。それとも私が怖がっていると思って、大丈夫ということを言いたいのだろうか。そういう紳士的なところに不意にキュンとさせられてしまう。

いよいよ頂上から下りに入るところ、ガタンとひと揺れしたと思えば私の安全バーが持ち上がって...え、嘘..ちょっ!!

「きゃぁぁああっ!!」

私は咄嗟に楠雄くんの腕と安全バーにしがみつくとぎゅっと目を瞑った。いつ落ちるのかヒヤヒヤする私を嘲笑うかのように、ジェットコースターは線路に沿って回転したりとアクロバットに動き回る。

走り終えた頃にはもう何が何だか分からなくて、楠雄くんの腕にしがみついたまま、覚束ない足取りでアトラクションから降りた。地面を踏みしめられる喜びをこんなところで感じるなんて思いもよらなかった。

確かにこのジェットコースターは同意書が必須だ。
まさかあんなギミックがあるなんて。楠雄くんも知っていたら教えてくれれば良かったのに...私らしくない悲鳴も上げて、恥ずかしいやら怖いやらで頭がぐるぐるする。




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