第94χ ψ果ての結縁地A




彼にしがみついたまま、休むことなく次のアトラクションへその脚は向かって行く。
彼が今度目指しているのはどうやら観覧車。彼にもこんな可愛らしい乗り物が好きなんだと感心した刹那、その観覧車は鳴ってはならない音を立ててガタガタと回っていた。

「こ...これ、大丈夫?音が凄いけど...。」

彼は一体私をどうしたいのか。
ここまで連れてきて一緒に遊びたいと思ってくれていたのか。こんな管理がずさんな場所に連れて来たことで私へのイメージダウンを図りたいのか。

彼に引っ張られるままに観覧車に乗り込むと、無慈悲にも乗り込んだ観覧車は上へと向かってゆく。

向かい合わせに座ってみたものの、楠雄くんは別に外を見るでもないし、じっと黙って座っている。
2人きりになりたくて乗ったんじゃないのか。私も先日の件もあって、すぐに話す話題も見つからないし、ぼんやりと外を眺めることにした。

外はどこ見渡しても青々とした木々が生い茂った自然が広がっていた。退屈ではないと言えば嘘になるが、日本にこんなところがあったのだと私の知らない世界を見つけたようで少しだけ心が踊った。

頂上にたどり着くと、楠雄くんから不意に何かを差し出された。私はそのものを眺めながら小さく首を傾げる。

「これを...私に?開けていい?」

彼の手に握られていたのは白い封筒。
コクリと頷くと彼からその封筒に視線を移して受け取ると、恐る恐る中を開けてみた。

どうやら手紙が入っているようだ。手紙を開いて中を確認する。手紙は彼の直筆で彼なりの想いが書き綴られていた。

私の記憶を一部消したのは自分であること。
その理由に関してまだ話すことはできないということ。
そして、今のように少し距離があるのは居心地悪い感じがするということ。つまりは仲直りをしたいと...。

全てを読み終えると私の頬には涙が伝わっていた。これは悲しいわけじゃない。嬉し涙だ。
彼がほんの一部だけれど本当のことを話してくれた嬉しさ。私を信用してくれた証。不器用な彼の気持ちが手紙から伝わって私の心をあっという間に満たしてくれる。
それと同時に彼も私との距離感にやきもきしていたなんて、自然と笑みが溢れてくる。

「ありがとう...楠雄くん。大事なこと教えてくれて。これだけ分かれば私も大丈夫だから。」

私の言葉に楠雄くんもホッとしたようで口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。
観覧車は残り1/4。変わらずその観覧車は悲鳴をあげるようにガタガタと揺れていたが、降りる頃にはまったく気にならなくなっていた。

「今日は本当楽しかったね。スリルが少し強めだったけど。」

帰り道、前を歩く彼に追いつこうと少し小走りすると勇気を振り絞って手を繋いでみた。今度は私から。
楠雄くんは私らしくない行動に少し驚いていたようだけれど、その手は振り払われることなく帰宅するまで握り続けられていた。

今日はここに来て本当に良かった。
ありがとう、楠雄くん。





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