第87χ Peach T Girl A




...やけに空気が重たい。
この原因は決して私のせいではない、と思う。

この空気の重たさは照橋さんが放つオーラだ。
ここに来て判明したことだけれど、照橋さんはどうやら子供が苦手みたいだ。うまく振舞っているように見えるけれど、時折見せる真顔に私一人でヒヤヒヤしてしまう。
それにどうしてか遊太くんは照橋さんに懐こうとしない。彼女に何か感じているのだろうか。
ケーキが食べ終わるや否や私の膝の上に乗っかって離れてくれない。これはこれで可愛いから私としては嬉しいのだけれど。

「遊太くん、ケーキ美味しかった?」
「うん!」

満足そうに満面の笑みを浮かべる遊太くんの口についたケーキのかけらを拭ってやりながら、照橋さんがへのお礼を促したは良いが、子供とは怖いもの知らずということを改めて思い知らされてしまった。

「どうもありがとう。心美おばさん。」
「て、照橋さんは私と同い年だからね!心美お姉ちゃんだよ。おばさんはダメ!」

慌ててフォローに入るも時すでに遅し。照橋さんは相当ダメージを食らったらしくその顔色はあまりよろしくない。
私も流石に照橋さんのフォローは出来そうにないので、これ以上は言葉を控えさせてもらおう。

「心美ちゃん、仁子ちゃんごめんなさい!今日町内の集まりがあるの忘れてた!今から行ってくるからみんなでお留守番していてくれる?」
「えっ...あ、はい...」

突然電話がかかって来たと思ったら楠雄くんのお母さんは会合に出かけて行ってしまった。
残された私達...気まずい雰囲気も相まってさてどうしたものか。ここから一刻もはやく出たいのだけれど...いかんせん、遊太くんが開放してくれそうにない。

「お姉ちゃんは帰ったらダメだからね!一緒にテレビ観よーよ。」

そんなこんなで遊太くんの提案に流されるまま私達はテレビを見ることになった。照橋さんの顔が更に険しくなったことには知らないふりをしておこう。

画面には遊太くんが大好きなサイダーマンが映し出されている。やっぱり男の子はヒーローものに憧れるのだろうか。まぁスペシャライザーの良さがわかる私も中々のアレだとは思うけれど。

相変わらず遊太くんは私の膝の上。そしてその隣には楠雄くん。照橋さんはというとソファーの背後でウロウロとしている。

やはりこの雰囲気には落ち着かない。
きっと照橋さんも楠雄くんと過ごしたいだろうに。こうなっては私にはどうすることもできない。チラチラと目線で合図を送ってみるもやはり楠雄くんは無反応...本当に気付いていないのか、はたまた気付かないふりをしているのか。

「わ...私...急用思い出したからやっぱり帰るね...」

ついにボキリと心が折れてしまったのか。声を震わせながらボソリと一言発すると、照橋さんは帰って行ってしまった。

「...照橋さん、大丈夫かな。流石にダメージ受けてたけど」

遊太くんの鑑賞を遮らないように小声で楠雄くんに呼びかけてみるも、知ったことかと気にする様子がない。それは男子として正しい反応なのだろうか。
女性である私としては放おってはおきたくはない。...が、照橋さんと楠雄くんとが親密になってほしいかと聞かれれば素直に頷ける自信はない。けど、大切な友達な訳で。

そんなこと頭の中で巡らせながら、一人でどうしたら良いかと考えていると、遊太くんが突然に立ち上がって外に出て行ってしまった。
不思議に思いながらふとテレビに視線を向けると、そこにはピーチTガールが映し出されている。念のため説明するとピーチTガールとはサイダーマンをサポートする紅一点のヒーローなのだ。
...なるほど納得。その容姿は酷似しているとは言い難いけれど、似ていないと否定もしきれない。

どうやら遊太くんはサイダーマンが絡む相手を特別好むらしい。コーラ男爵を除いては。...けど、私は一体誰に似ているのだろうか。

この後遊太くんが照橋さんを連れてきて、膝の上に座ったりと遊太くんはめちゃくちゃ照橋さんに懐いた。
楠雄くんをちらりと見ればかなり複雑な顔をしていたけれど、これはこれで結果オーライということにしておこう。





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