第85χ そうだ、アルバイトしよう。A




無事、燃堂くんはバイトをクビになって今はみんなと公園に退避している。公園のブランコに座っている燃堂くんはいつもと違ってどこか悲しそうだ。そこまでしてバイトしたい理由が何かあるのだろうか。

「燃堂くん...どうしたの?バイトしていた理由に何かあるなら話してほしいな。手伝えることがあるかもしれないし。」
「...来週母ちゃんの誕生日なんだよ。それで金貯めてんだろーが。」

思いもよらない言葉にみんな目を丸めて固まっている。勿論、私もだ。けれど、よくよく考えて見ると何もおかしいことはない。燃堂くんが両親思いなのはよく知っている。

燃堂くんの思いを聞いた海藤くんと窪谷須くんの瞳に涙が。確かに、いい話だけれど涙ぐむところまでいけるなんて。みんな感受性豊かなんだなと頭の片隅で思ったのは秘密だ。

「と...とにかくそういうことなら俺らも手伝ってやるからバイト探せよ!」
「駅前のファミレスでバイト募集してっから全員で面接行くか!」

あれよあれよと話が進み、私達は駅前のファミレスに向かうこととなった。

「えー3名の新しいスタッフを紹介します。」

真新しいスタッフユニフォームを身に纏ったのは海藤くん、窪谷須くん、それと力井くん...?あれ、燃堂くんのことをなんで力井くんなんて呼ぶのだろう。
ちなみに、私と楠雄くんは客として見守る係。まぁ、単に力不足だと見られたようでお陰でバイトの面接で落とされたのだ。

そのような経緯もあってテーブル席で楠雄くんと3人を見守る。楠雄くんとは向かい合わせの席。魔美ではよくあることだけれど、こういうより公の場所で座るのはなんとも羞恥心が湧いて来る。どこかしら楠雄くんの視線熱い...私に向けられているわけじゃないのだけれど。

「3人とも、ちゃんと続けられると良いけど...せっかくの気持ちのこもったプレゼントなんだし。」

どうだかとため息混じりに不安げな表情をするものだから、思わず私も引きつった笑いしか出てこない。

私達の思いを裏切る事なく、案の定やらかしてくれるわけで。
燃堂くんはお客さんに水注ぐし、それにフォローに入った海藤くんは転んで同じお客さんにコーヒーぶちまけた。挙げ句の果てに、イチャモンつけて来たラッパーの男性客に絡まれて窪谷須くんが耐えられず拳を振りかざす始末。

とばっちりを受けないようにすかさず机の下に避難すれば、誰かに手を引かれてそのまま出口へ。
掴まれた腕を追ってみれば、楠雄くんが私の手を引いてくれている。その手は先程までジュースのコップを持っていたせいかひんやりとしていた。

「もしかして...助けてくれた?」

コクリとは頷かなかったけれど、きっとそうなのだろう。小走りに楠雄くんの隣に並べば、私より大きな歩幅に遅れないよう必死について行く。勿論、繋いだ手は握ったままで。

いつになったら離されてしまうのかドキドキして、どうにも気持ちが落ち着かない。楠雄くんは何を考えているのだろうか。私にはまったく窺い知ることができなかった。
結局、その手が離れたのは家の前。離れてもその手は熱く熱を帯びているようだった。

後日、バイト先から学校へ苦情が届いてこっ酷く叱られたのは言うまでもない。





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