第28χ 占いはお好きですか?A




「初めまして私はクレヤボヤンス☆魅希呼。今日はどんなご相談かしら。」

なんとも占い師らしい呼びにくい名前をしている。なぜその名前にしたのかをまず聞きたいぐらいだけれど、今回の主役は私ではなく海藤くんだ。ここまで来ると彼が何を知りたいのか少しばかり興味が湧いて来た。

海藤くんは歯切れ悪く言葉を発していて、中々相談を始める雰囲気にはならない。探るような物言いは一応は調査する気はあるみたいだ。彼は今クレヤミキコの様子を窺っている。

すると今度はとクレボンミキコが口を開く。

「貴方...何かしらね...何か他の人とは違うオーラを感じる...」

言葉を発したかと思えばイマイチぼんやりとしていて、海藤くんの反応を見るような事ばかりを述べる。海藤くんはそんなヤンスミキコの術中にハマって驚いたり、少し信じ始めているような顔をしている。

占いとは相応にしてそういう手口だ。中には本当に予知などができる人間もいるのだろうが、占いで生業を立てる人間は、少し周りの人間より洞察力が長けているだけのこと。オーラやら何かを感じる雰囲気を出しながら当たり障りのないことを口にして、相手の反応を見る。それでうまく反応してくれたら占い師の思惑通り。あとはそれを続けていけばいいだけの話。当たり障りのないことだから、予知と言っても多くの人間が遭遇するようなことが大抵だろう。それで何割かの人間が信じれば上出来。それがよく当たる占いのトリックだ。もし外れたとしても当たるも八卦当たらぬも八卦という昔からのありがたいお言葉があるので、それが免罪符になるのだろう。だから、私は占いやらそういうものは信じないようにしている。

それにしても海藤くんは面白いようにハマっている。彼は感じたことを顔に出してしまうから仕方ないのかもしれない。今度、私も彼相手に占い師にでもなってみようか。きっとこの似非占い師よりかは確実に当てられると思う。だって、彼女より長い時間君のことを見続けて来ているんだもの。楠雄くんのついでだけどね。

ようやく回りエセミキコのくどいやりとりを終えて、彼の悩みが人間関係であることが明らかになったところで、私が飽きてしまった。一応邪魔したら悪いと、ここに居続けているけどそろそろ本当に帰りたくなってきた。

眠いせいか、ミキコの後ろに楠雄くんが見えるような気がするし...ん?楠雄くんがいる?
部屋が暗いせいなのか、彼が薄ぼんやりにしか見えない。確かに入るときは私と海藤くんだけだったし、楠雄くんがこの場にいるはずがない。目を細めてみたり、目を擦って見直して見ても薄ぼんやりな楠雄くんがじっと2人の様子を見つめている姿が見えてしまう。...きっと疲れているのだろう。今日少し頭痛かったし。
じっと見つめていたら薄ぼんやりな楠雄くんと目があってしまった。咄嗟に顔を伏せて逸らしたけれど、物凄く驚いていたような気がする。

海藤くんの方はいつの間にか占いも丸く収まる形で終わりを迎えていた。海藤くんはおばさんから3万で買ったネックレスを大事そうに持っている。恐らく幸せのツボと同じようなものだろう。けれど、そこに海藤くんの気持ちがあるなら、いくら払おうとそれはそれでいいと私は思う。

ようやく話が済んで外に出れば眩しくて咄嗟に出て影を作って日を遮る。瞳孔がキュッと締まる感覚で目が少し痛む。
ようやく彼と共に帰路を歩く。とても満足そうな笑みを浮かべていて、よほどあの占い師に良いことを言ってもらえたのだろう。私まで少し嬉しくなってしまいそうだ。

「...なんだか、幸せそう?占いの館に行ってよかったね。」
「おう、これから友達増えて忙しくなるぜ!」

そうか...海藤くんは寂しかったのか。人間関係で悩んでるって言っていたもんね。彼はかなり残念だけれど、根は優しいから周りもそれがわかればそんなものに頼らなくても友達なんてすぐできるだろうに。

「おー!相棒!よォーちびと平凡も居んじゃねーか!」

聞き慣れた声に後ろを振り向けば、燃堂くんと楠雄くんが居る。あれ、今度はぼんやりしていない本物の楠雄くんがいる。やっぱり館で見たのは私の幻だったのだろうか。そう考えたとしても私は無意識に楠雄くんの幻を見てしまうほど好きなのだろうか。...うん、これはかなり恥ずかしい。

「よ...よし!じゃあラーメン食いに行くか!」
「お?焼肉の方が良くねーか?」

相変わらず脂っこいものが好きだな。よし、ここは海藤くんのために今日は私もついていこうかな。楠雄くんもなんだかんだ一緒に行くだろうし!

このとき、私は気付かなかった。
彼が私を猜疑の眼差しで見ていたことを。





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