第27χ ゼリーは水に還りましたとさA




まずは周辺に落ちていないかを手分けして探す。
誰も手入れしてないせいで伸びきった雑草をかき分けて探すのは中々に骨が折れる。時々燃堂くんがお!?やら、お!なんて期待させる声を出すから身体だけでなく、精神的にも余計に疲れを感じてしまう。

「はーもうねぇよ。諦めよーぜ。」

とうとう燃堂くんが探し物に飽きてしまったらしく、ぐったりとした表情で少年を見つめていた。すると少年の頬に一筋の涙が伝う。

「あのボールは...おじいちゃんの形見なんだ。死んだおじいちゃんからもらった大切なボールなんだ。」

そこまで言われたら買い直すなんて言えるはずがない。燃堂くんも探索を再開し始めている。
ふと思うのだけれど、燃堂くんは普段は何も考えてなさそうでどこか不安げだが、こういう自信が落ち込んだ時に燃堂くんが発する一言って絶大に安心する気がするのはなぜだろうか。きっとこういうことは頭がいいとかではなく、性格が出るのだろうか。私も負けていられない。

そう意気込んだはいいが、いつの間にか近くで探していた楠雄くんがいなくなってしまった。けれど怒るつもりはない。また犬の時のように見つけて来てくれる気がするから。

探している間、少年はボールについて色々教えてくれた。失くしたボールが根岸というプロ野球選手のサインボールであるということ。ネットオークションでは3000円の値がつくこと。コンプガチャにハマって一度売りかけたことがあること。
...形見になる前とは言え、ここまで雑に扱えるものなのだろうか。
しかし、本来の用途を考えれば、飾っておくよりかはその通り使ってやるのが道具も喜ぶのでないかと思わなくもない。そもそも無機質なものに感情があるかどうかから議論するところだろうけども、ここでは割愛させてほしい。

そんな下らない雑談をしていれば、案の定楠雄くんがボールを見つけて来てくれた。なんだか顔色が悪いようだけれど。
一方の少年はとても幸せそうな表情をしていた。今度は売るとか失くしたりしないようにするんだよ。

「楠雄くん、元気ないけど大丈夫?もし、疲れたのならこれでも食べて元気出して!」

探し物を見つけたのに浮かない顔のままの楠雄くんに自身が買った豆腐プリンを1つ差し出す。最初は不思議そうに首を傾げていたが、コーヒーゼリーには敵わないけど、と付け足せば素直に受け取ってくれた。

そろそろ帰ろうと公園の隅に置いた重たい買い物袋をよいしょと持ち上げる。ふと軽くなったと思えば、楠雄くんに奪われてしまった。もしかしてもっと豆腐プリンが食べたいのだろうか?いや、そんなわけがない。

「もしかして...持ってくれるの?」

コクリと頷いて先に歩き出す彼の背中を追いかける。一般男子より少し華奢だけれど、私の大好きな背中。
いつかは君のその背中を守れる存在になりたいと思うよ。




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