第26χ 初めまして初恋くん@




朝食は食べた。身なりも整えた。
忘れ物ないかもチェックした。

「いってきまーす。」

玄関で靴を履いて、両親に出掛けの挨拶をすれば今日も元気に学校へ。
門を出れば通い慣れた通学路を歩く。

前を歩くのは私の通っている学校の生徒。うちの学校の制服は緑色と他には無い独特な色をしているため、見ればすぐにわかるようになっている。迂闊に悪さをすればすぐにバレて学校に連絡されてしまう。前を歩く男子生徒のピンク色の髪が風になびいてキラキラと輝いて見える。この髪の色、手入れ加減は間違いない。

「楠雄くん、おはよう。」

私は小走りで前を歩く彼に声をかければ、挨拶を返すようにぺこりと軽く会釈をしてくれた。これが私達の日常である。

私は彼のことを名前で呼ぶようにしている。
その理由は出会った時にそう呼ぶように彼と決めたからだ。今日はその日の出来事を話そうと思う。

前にも述べたように、私がこの街にやってきたのは高校に丁度上がる頃と同じで、理由はありふれた父の仕事の都合というやつだ。
私は見ての通り、友達が多くなかったから転勤で今までいた学校から離れるのも、さして寂しいとは思わなかった。むしろ、新たな関係や新たな気持ちで生活できると思うと嬉しいと思えるほどだった。

引っ越しは順調に進んで、荷解きもほぼ片付いたところで母と一緒に近所を回ることになった。私は家に居たかったのだけれど、もしかしたら同年代の人に会えるかもしれないと母がしつこく誘うものだから仕方なくついていくことになった。

挨拶回りのために持たされた紙袋が重い。もしかしたら荷物持ちのために付き合わされたのではないかと思って聞いてみたら案の定、荷物持ち役だった。
だが、もう逃げられない。
うちから遠い順に近所に挨拶して回った。母の話したがりな性格のせいで立ち話も多く、かなりの時間を要してしまったが挨拶は最後の一件となった。それが向かいの斉木さん宅だ。

チャイムを押して出てくるのを待つ。
ガチャリと扉が音を立てて開いたかと思えば、1人の男の子が出てきた。母が引っ越しの挨拶回りだと伝えれば、その少年は中に戻ってしまった。代わりに出てきたのが、とても母親とは思えないほど若く見える女性だった。

斉木夫人と母は偶然にも昔のクラスメイトだったことが発覚し、またまた立ち話になってしまった。今は何をしてるのだとか、今出てきたのが弟で兄もいるんだっけなどなど...話題に花を咲かせている。
いつ終わるのだろうとぼんやり空を眺めていれば、斉木夫人はそれに気付いて先程の少年を呼んできてくれた。

彼は無表情でこちらを見つめてくる。話を聞くと、どうやら私と同い年ということがわかった。同い年なら今後も何かとよろしくすることも多かろうと、愛想よく初めましてと挨拶すれば、彼はぺこりとお辞儀をするだけ。
私は彼が私と同種なのだとすぐに気付いた。いや、声を発するだけ私の方が社交的な気がする。

そんな無表情の彼だが、斉木夫人にはくぅちゃんとなんとも可愛らしい名前で呼ばれている。試しにくぅちゃん?と読んでみれば露骨に嫌そうな顔をされてしまった。
それも仕方ない。男子がちゃんづけで呼ばれていい気はしない。母親だから許しているということだろう。
それならばなんと呼ぼうか。やっぱり斉木くんなのだろうか。...いや、斉木くんだとまだ見ぬお兄さんと被って後々面倒なことになりそうだ。ちゃんがダメなら今度はくん、だ。

「くぅくん?」

君付けしたらさらに不愉快そうな顔をされてしまった。斉木夫人にくぅくんはお兄さんのことだと教えてもらった。回避したはずだったのにやらかしてしまった。
苗字もダメ。あだ名もダメときたらもう呼び方は1つしかない。

「...楠雄、さん?いや、楠雄くん?」

うん、これなら区別もつくし無難な呼び方だろう。自己満足するようにウンウンと頷付いて彼の方を見てみれば、彼もそれでいいと言うように頷いてくれた。心なしか笑みを浮かべているように見えて、その瞬間私は彼に目を奪われてしまった。
それからと言うもの、私は彼を楠雄くんと呼ぶようになった。

後々になって名前で呼びあうことの恥ずかしさを思い知らされる事件もあったのだが...それはいずれ時間ができた時に話そうと思う。

「楠雄くん、今日も天気がいいね。」

空を見上げれば、彼も同じように空を見上げる。
君と、みんながいる学校へ。
今日は一体何が待っているだろう。





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