第21χ キューピット作戦と恋心A




放課後、こっそり彼らの後について行く。
これで尾行は二度目。私は後ろから見ていただけだけど、感覚は掴めている。あの時付き合って良かった。ありがとう、海藤くん。

今は駅前の繁華街に来ている。憂鬱と言っていただけあって知予ちゃんは溜息ばかりついている。タケルくんはそのことに気付いていないようで、1人で笑みを浮かべて上機嫌だ。
この状態じゃ三ヶ月記念日も忘れているのだろう。知予ちゃんが教えてくれたけど女の子はそう言うことに敏感だ。付き合う以上は男子もそれに対応していかなければいけないと思う。記念日は大事。

「...?三ヶ月...?」

ふと思い出しのか呟いた言葉に、耳を疑った。一方、知予ちゃんの顔が驚くほどに一気に明るくなった。実は気付いていたのかな...そうは見えなかったけど。
タケルくんは勢いでプレゼントを用意したと言ったけど、多分用意もしていないのだろう。プレゼントを目を瞑ってじっと待つ知予ちゃん。それに対してタケルくんはカバンから...さきイカを取り出した。え、さきイカ?

彼はどこまで女の子を舐めているのだろうか。これじゃ知予ちゃんが嫌気さすのもわかる。これならばいっそ別れてしまった方がいいのかもしれない。私もついつい盛大な溜息を吐いてしまう。

「わー!!可愛いうさぎちゃんだー!!」

終わったなと知予ちゃんの方を向けば、いつの間にかさきイカがうさぎに入れ替わっている。一体何が起きたのだろうか。
不思議そうに楠雄くんを見つめれば何かを投げたような格好をしていた。もしかして楠雄くんのフォローのおかげだろうか。それにしても見事にタケルくんの手に収めるなんてコントロール技術に目を見張るものがある。

楠雄くんのおかげで、なんとかこの場はタケルくんの好感度を上げることに成功したようだ。
それから私達は引き続き尾行を続けた。思いの外、順調にデートは進んでいるようで知予ちゃんも楽しそうで安心する。最後までこのままでいけばいいのだけれど。

しばらく物陰に隠れながら様子を窺っていると、何かに気付いたのか知予ちゃんがこちらに向かって振りかえる。女の勘と言うのだろうか。隠れようとするも隠れる場所はどこにもない。

もうダメかと諦めようとした刹那、私の身体を影が覆う。同時に顔の横には手が添えられている。
気付けば楠雄くんの顔が目の前にあって、吐息が顔にかかる程近い。鋭い彼の瞳に私の顔が映って見える。...息が、できない。

ハッとすれば、いつの間にか2人は何事もなかったかのように歩き出していた。それに伴って楠雄くんまた尾行に戻っていってしまった。私を隠すためにやってくれたとはいえ、不意打ちの壁ドンは...反則だと思う。腰が抜けそうになるのを脚を踏ん張って楠雄くんの後ろに付いて行く。ずるいよ、楠雄くん。

日もそろそろ落ちて、2人は夕飯を食べるのかお好み焼きのお店に入っていった。
もう2人は大丈夫だろう...私ができることは何もない。そろそろ帰ろう。きっと明日にはまた知予ちゃんの笑顔と共に惚気が聞くことができると思うと、少し嬉しくなる。

「私はそろそろ帰るけど、楠雄くんはまだいる?」

首を横に振って見せる。一緒に帰るらしい。
家に向かって踵を返したところで知予ちゃんがお店から飛び出して来た。...うん、やっぱりそうなるよね。

翌日、知予ちゃんから別れたと聞かされた。
彼女の瞳は今日も楠雄くんを見つめている。





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