「倦怠期ってやつなのかなぁ...」
「え?彼とうまくいってないの?」
机に頬付いて盛大な溜息をつく知予ちゃん。聞き返せば頷いて机に突っ伏してしまった。彼女にも別れの季節がやってきてしまったらしい。
彼女は楠雄くんへのアプローチを行った日、見事に撃沈して手を差し伸べてくれたタケルくんとやらと付き合い初めていた。
付き合いはじめは格好いいとか、キュンってする言葉をくれるとか本当に楽しそうだったし、知予ちゃんがとても輝いて見えて正直羨ましいと思ってしまったくらいなのに。
それが最近はタケルくんの愚痴ばかり。あまり遊んでくれないとか足臭いとか、クチャラーとか、はしの持ち方キモい等々...確かに話に聞く限り、私も付き合うのをやめようと思うレベルだ。
「それに比べて斉木くんは王子様みたいでタケルくんとは大違いだよっ。」
知予ちゃんはじっと楠雄くんを見つめている。その顔はまさに数ヶ月前に見た、恋する少女の表情。これはよろしくない雰囲気が漂ってきた。
知予ちゃんは大切な親友だし心から応援したいけれど、なるべくなら楠雄くんよりタケルくんと幸せになってほしいと思ってしまう。まったく自身のエゴに嫌気がさす。
「今日もタケルくんと帰る約束しちゃって憂鬱。」
嫌なら断ればいいのに思ったけれど、まだ別れを切り出せないのは知予ちゃんにはまだタケルくんを好きな理由がどこかにあると言うことだろう。それならば私がなんとか2人のキューピッドになってあげたい。そのためにはタケルくんがどんな人であるか知る必要がある。まずはそこから始めよう。
昼休みになり、タケルくんのいるクラスを廊下側からガラス越しにこっそりと覗き込む。
タケルくんはと...いたいた。男子3人と雑談をしている。見た目は悪くないと思う。左目尻の泣きぼくろに色気を感じる。
しかし、問題は中身だ。会話を聞く限りあまりお利口な感じには思えない。知予ちゃんとはうまくいっていると思っているし、なぜあんなにも自信満々なんだろう。彼は俗に言うナルシストなのだろうか。これならば中二病の海藤くんの方が何倍もいい。
性格もさることながら、笑いすぎると顎外すって...一気に場の温度が下がっていっている。これは中々手強そうだ。
情報収集は一通り終わった。あとはなんとかして知予ちゃんとの距離を縮めさせる方法だが...ふと視線を横に向けると楠雄くんの姿が。タケルくんをじっと見つめて思案しているように見える。彼も彼女達の関係をなんとかしようとしているのだろうか。それならば1人でやるより仲間がいた方がいい。
「楠雄くん、ちょっと...こっち」
手招きをすれば私に気付いたのか歩み寄ってくれた。こちらの事情を話せば納得したように頷いてくれる。どうやら協力してくれるらしい。よかった。
計画実行は2人が一緒に帰る放課後。
私達が彼らにすべきことは、タケルくんに対する知予ちゃんの好感度を上げること。無事に成功して2人の仲が良くなればいいな。