第2χ 保健室ではお静かに




やらかした。

今日から高校2年生となり、関わりがあるかどうかは別として私も後輩ができる学年になった。
先輩になるという事実に去年以上にしっかりしようと意気込んだ矢先の始業式、体育館での恒例である校長先生のありがたく長ーい話に身体へのふわふわとした浮遊感に加えて視界が少しずつぼやけていく。

朝食べ損ねたせいで貧血起こしたかなと頭の片隅で思いながらも、込み上げてくる嘔吐感と共に徐々に顔から血の気が引いていく不快感に身体の力が抜けていくのを感じる。
ここで倒れると全校生徒の注目の的になってしまう。それだけは絶対にあってはならないと、ふらつく脚で床を踏みしめつつ静かに整列から抜けると、先生に体調が優れないことを告げて保健室で休ませてもらうことにした。

保健室は先生も含め、体育館での始業式に参加しているため当然誰もいない。チカチカと目眩が限界まで近づいてくるのを感じ、1秒でも早く辿り着かねばと入り口側のベッドにダイブするように横たわった。万が一誰かが来ても視界に入らぬよう最後の力を振り絞ってカーテンを引くことに成功すれば、なるべく早く体調が良くなるようと願いながら一眠りことにした。

意識が少しずつ遠ざかり、丁度気持ちよく眠りに入ろうというところでカーテン越しにバタバタと騒音が響く。恐らく私同様に体調不良の生徒が現れたのだろう、ガラリと荒々しく扉が開かれた。

...誰だろう。体調不良の割には元気そうだけど。

入って来た人物が誰なのかどうしても気になってしまい、気怠いながらもじっと耳を澄ませてみる。
声色的に同じクラスの燃堂くんだろうか...だが、足音からして燃堂くん1人だけではない。他にも誰かいるのかと更に聞き耳を立てていると、当然ドンッと騒音と共にベッドに強い衝撃を受ける。あまりの揺れに心臓が飛び出そうになるのを咄嗟に口を塞いで息を止めてみる。幸い声は出なかったようで私の存在は気付かれていないようだ。

衝撃のせいでドキドキと鼓動する心臓を落ち着かせるように呼吸を整えつつ、ぶつかった衝撃で僅かに開いたカーテンの隙間から様子を覗き込んでみる。保健室には予想通りの燃堂くんがいて、それにアフロヘアーが特徴的な高橋くん...更には楠雄くんがいて何か揉めているようだった。
私は気付かれぬようにそっと息を潜めて3人の様子を窺うことにした。

暫し話を聴いている内に理解したことがいくつかある。まず、高橋くんが校長先生の話に耐えかね、仮病を使って抜け出そうとしていたこと。次に経緯は不明だが、燃堂くんと楠雄くんが付き添いでここまで来たということ。中々絡みを見ることのない3人に小さく首を傾げてしまう。
燃堂くんと高橋くんがあーだこーだ言い合っているうちに松崎先生も入って来て、保健室がより一層騒がしくなる。3人の声が胃を刺激して、気持ち悪い。

...騒がしさに体調が悪化した気がする、もうダメ。
私はそのままベッドに横たわって騒ぎが収まるのを待った。

ふっと意識を数分外した後に、遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。
私の存在に気付いて呼ばれてしまったのかと思ったが、一向に声をかけられないところを見るとどうやら高橋くんがどうやら運ばれて行ったらしい

薄れゆく意識の中で92℃とから聞こえていたし、それは救急車呼ばなきゃダメだよね。人間の体温じゃない。

高橋くんが運ばれて言って騒ぎが収束したのか、保健室はしんと静まり返ってしまった。先程まで吐き気がしそうになるくらい騒がしかったのに...なんだか逆に落ち着かなくってしまう。

人の気配も感じないほどの静けさの違和感に念のため確認しようと、無理に身体を起こして再度カーテンの隙間から保健室を覗く。そこにはまだ楠雄くんがいて、ベキパキという音とともに彼の右手が発火...え、燃えてる!?

慌てて声をかけようとするも身体に力が入らず頭の重みでベッドに倒れ込んでしまった。私が脱力しているうち、あっという間に燃堂くんが楠雄くんを連れて行ってしまい、結局声をかけることは叶わなかった。

ようやく保健室に本当の平穏が訪れた。
私は掛け布団をかけ直して一度状況を整理することを試みた。

人体発火の病名がケ病?聞いたこともないけれど...一体なんだがわからない。怠くて頭が回らないせいなのかな。
私は一度考えるのをやめて、今は回復に専念することにした。

明日、楠雄くんが学校来なかったらお見舞いにでも行ってみようかな。




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