第1χ ψ難は日常の僅かなズレに過ぎないA




無事、一通りの授業を終えて帰路を歩く。
なんとか遅刻は免れたが、先生に珍しいなと目を丸めて言われてしまった。目立たないことを徹底して来たのにクラスの人達には注目されてしまうし散々だった。

家の前の通りまでやって来た。
玄関まであと少しというところでスーツ姿の男性が壁に寄りかかりながら蹲っているのが見える。彼が蹲っているのは私の反対側の家...つまりは楠雄くんの家に当たる。

そうなると蹲っている男性は1人しかいない。

「おじさん...こんなところでどうかしたんですか?」
「やぁ、仁子ちゃんおかえり。恥ずかしいことに家には入れなくてね..楠雄を待っていたんだ。」

楠雄くんのお父さんである。
温厚そうな優しい顔立ちをしていて、私はおじさんを見る度に暖かな気持ちになる。きっと楠雄くんに彼の面影を感じているせいもあるからなのだろう。

「そうなんですか。まだ冷え込む時期ですし良ければうちで待って...その必要はなさそうですね。」

本日2回目の遭遇である。楠雄くんが帰ってきたのだ。
楠雄くんは私を見るなりぺこりとお辞儀するだけで、お父さんとの会話をし始めてしまった。会話と言ってもおじさんが一方的に話しているだけに見えるのだけれど。

「それじゃ...私はこれで。」
「仁子ちゃん、ありがとう!今度うちに遊びにおいで」

おじさんと楠雄くんにぺこりとお辞儀をすると私は家の中に入っていった。玄関を閉じると緊張で強張っていた身体が溶けて行くのがわかる。なんだかんだで人といるのは落ち着かない。それになんと斉木家のお招きを受けてしまった!
けれど、遊びに行っていいのだろうか...楠雄くんとそこまで仲良くしてるわけでもないし。それに...。

夕飯を食べていると、お向かいさんからは罵声や怒鳴り声が聞こえてくる。この高めの声は楠雄くんのお母さんのものなのだろうか。楠雄くんのお母さんも見たことあるけど2人とも温厚そうなのに。仕上げにはパパパパーンと激しく窓割れる音が聞こえてくる始末。

私が人の家庭事情をどうこう口を挟むことはないけれど...楠雄くんの家に行く時にはちゃんと様子を見てから行こうと、夕飯の唐揚げを咀嚼しつつ頭の片隅で思った。




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