第3χ 漆黒の翼と殺人竜蛇@




どの時代も若者の好物はさして変わることはない。
恋愛話、流行のネタ、そして旬なニュースなどなど...そして目に留まった話題は誰かと共有せずにはいられない。もうこの衝動は生まれ持った性のようなものなのだろう。勿論、私のクラスの人達も例外ではない。

今朝から騒がしくクラスを賑わわせている話題は、近所のペットショップから毒ヘビが脱走したということ。
周りからは外歩けないだとか、蛇に足はないとかその話題で持ちきりになっていた。
私も興味はないわけではないけれど、イマイチ現実味を帯びない話のため、その話題に乗る気はない。第一、楠雄くんもさしてその話題を気にしている様子もないのだから、きっと大したものではなのだろう。これはあくまで私の主観によるものだけれど。

「果たして本当に逃げたのかな...」

1人の生徒が意味深に呟けば、賑わっていたクラスがしんと静まりかえる。視線も自然と彼の方へ。
彼は海藤駿。両腕には赤い包帯を巻いていて、口を開けば常人には理解し難い言葉を口にする。彼は世間一般で言う中二病患者なのだ。顔が良いだけにとても残念に思える。

彼曰く、毒ヘビ...殺人竜蛇は意図的に逃がされたものらしい。毒ヘビが逃がしたのは「悪の秘密結社、ダークリユニオン」。
クラスの熱が冷めていくのが目に見えてわかる。それは当たり前の話で、秘密結社なんて誰も信じるはずがないのだから。
彼のおかげで賑わっていたクラスが少しばかり静かになったような気がする。思考はアレだけど、私は海藤くんのことが嫌いなわけじゃない。彼のおかげでこうやって読みかけの小説が落ち着いて読めるからだ。ありがとう、海藤くん。

小説を進めながら、数分前までクラスの注目の的であったら海藤くんをちらりと目で追ってみる。みんなの反応があまり良くなかったのが不満なのか、ブツブツと楠雄くんに話しかけている。一方、話しかけられた楠雄くんは分かりにくいが迷惑そうな顔をしている...確かに、中二病ではないのにあの絡まれ方は対応に困ると思う。秘密結社は面白いけど、もう少し現実味があれば良いのにな。

「やるしかない....人類を殺人竜蛇から守るんだ!」
「おー!蛇が捕まったってさー!」

海藤くんの決意の言葉に被せるように、教室に入ってきた男子生徒から届いた朗報にクラスが再び騒つく。どうやら世界の平和は小学生の手によって守られたようだ。いや、よかったよかった。

「フフ...笑ってられるのも今のウチだ...!時が来た時、せいぜい怯えるがいい...」

またまた意味深な言葉を残して海藤くんは教室を出て行ってしまった。クラスのみんなが彼を小馬鹿にしたから怒ったのかな...声も少し震えていたような気がする。海藤くんに続いて楠雄くんも席を立って教室を出て行ってしまった。慰めに行くのかな。クールだけど優しいところが楠雄くんらしいというか、好きなところの一つだ。

にやけそうになる顔を文庫本で隠しながら、私は小説の世界へ再び戻ることにした。





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