第19χ 彼の辞書に諦めの文字はない@




灰呂杵志
彼は学級委員で私のクラスの中心人物的存在。持ち前の優しさとリーダーシップを兼ね備えた彼は、クラスでも信頼されていて人気もある。
そして彼のもう一つの特徴は、とにかく情熱的というか熱いところである。

今だって知予ちゃんの代わりに荷物を持ってうさぎ跳びをしている。それを見たクラスの男子も続いてうさぎ跳びでついて行っている。これだけを述べれば彼の全てが明確に伝わるのではないだろうか。
正直、騒がしいだとか廊下でうさぎ跳びするとか邪魔だ...なんて無粋なことを思ったとしても言わないでおこう。

まるで楠雄くんとは真逆の性格だと思う。灰呂くんは熱いし、楠雄くんは逆にクール。まるで少年漫画の主人公と敵のポジションのようだ。勿論、主人公は間違いなく灰呂くんだ。

彼はいい人だし、私の心象もいい。けれど、あまり物事に対して熱心に取り組むものだからそこは私とは合わないと感じている。情熱的な面も確かに必要だけれど、冷静に物事を見る目も大切だと思う。
いっそ、灰呂くんと楠雄くんを足して2で割ってみたらちょうど良いのかもしれない。...いや、私は今の楠雄くんの冷静さが好きだから、やっぱりそのままがいいな。

そんなことを考えながら玄関までの廊下を歩いていると、先ほど述べた2人が歩いてくるのが見える。真逆の2人が一緒にいるなんて少し意外でびっくりしてしまった。

「やぁ、平凡さん。君ももし少し時間があれば一緒に来て欲しいんだが。」
「...時間は無きにしも非ず、というとこかな。」

嫌な予感がして歯切れ悪く答えるも、灰呂くんは肯定と解釈したのか嬉しそうな顔をしている。
これはもう逃げられる気がしない。素直に忙しいと逃げてしまえばよかった。つい楠雄くんがいるから...仕方ないよね。

仕方なく2人について行く。
灰呂くんが目的地に向かうまでの間、寝ている間に人は300mlの汗をかくなんて豆知識を教えてくれた。テレビで某テニスプレイヤーが言っていたような気がするけど、ここは素直に相槌を打っておこう。

辿り着いた先は作業用の教室。
灰呂くん曰く、体育祭の準備をしていて入場口の作成中とのこと。彼の言葉にん?と違和感に首を傾げるも、私は体育祭についてまったく知識がないためここは素直に納得することにした。

室内に入れば作成中の入場口が...壊れていた。

「うおおおおお!!?」

灰呂くんが衝撃のあまり大声を上げている。咄嗟に耳を塞ぐも一歩間に合わずキーンと耳鳴りがする。だめだ、もう帰りたい。

壊れていたのは入場口の右側の柱。
一体誰が壊したのだろうか。灰呂くんはそんなことより壊れた柱を直すことしか考えていないようで、ノコギリを持って修理に取り掛かってしまった。私も手伝うしかなさそうだ。しかし、大工仕事は得意ではない。力も大してない。私は2人の補助に徹することにした。

しばらく作業を続けていると木材が足りていない事に気付く。灰呂くんの辞書に諦めるという言葉はないようで、買ってくると張り切っている。そうなると必然的に楠雄くんは、木材が来るまで大工作業を続けるという役割になる。

さて...私はどちらの手伝いをしようかな。

灰呂くんを手伝う。
楠雄くんを手伝う。





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