第19χ 彼の辞書に諦めの文字はないA(灰呂)




私は灰呂くんの手伝いをする事にした。
木材はきっと重いだろうし、1人で持つよりかは力のない私でもいた方が負担も減るだろうと考えたからだ。

近くの木材店に向かったものの、こういう店は割と早く閉まってしまう。案の定、向かった木材店も閉まっていた。
しかし、先ほども述べたように灰呂くんの辞書に諦めるという言葉はない。この後、木材を譲ってくれそうなところを片っ端から訪ねる羽目になってしまった。

ようやく、製材業を営んでいる人のところで一本丸太を貰い受けることができた。製材業ならある程度加工してくれてもいいのにと思ったけれど、体育祭の為だと無理言って譲ってもらったので、これ以上ワガママを言うべきではない。
丸太一本をどうして運ぼうか。私1人で思案している間に灰呂くんは丸太を背中に担いで運び始めてしまった。

「は、灰呂くん!私も運ぶの手伝うよ。せっかくついて来たんだから。」
「女子にこんな重いものを持たせるわけにはいかないだろう。僕は大丈夫だ。平凡さん、心配してくれてありがとう。」

そう言われては、私はもう何もできない。
仕方なく灰呂くんの様子を窺いながら隣を歩く。見た目通り、丸太はかなり重たいのか彼の顔からは汗が噴き出している。
灰呂くんが苦しげに声を上げながら丸太を引きずるものだから、すれ違う人に怪しまれている。木に縛り付けられながらも逃げて来たのだろうかなとヒソヒソと聞こえてくる。...恥ずかしさで穴があったら入りたいくらいだ。
しかし、私は彼のために何もできていない。持っているハンカチで邪魔にならないよう彼の汗を拭ってみる。

「っ、ありがとう。おかげで元気が出て来たよ。学校までもう少しだ...頑張ろう!」

私達は1時間を要して、やっと学校にたどり着ついた。その頃には、私のハンカチは濡れた雑巾のように絞ると汗が面白いように出てくるほどに濡れていた。

教室に戻ると柱は楠雄くんの手によって、ほぼ出来上がっていた。あとは持って来た丸太で不足分を作り直すところをのみ。あともう一歩だ。

仕切り直して作業を始めようと準備しているところに、部活動を終わらせて来たクラスメイトが手伝いにやって来てくれた。人手と力自慢の男子がいてくれたおかげで、思いの外スムーズに進んでようやく完成まで漕ぎ着けることができた。

全員でやりきった感動に、みんな興奮の声を上げている。これが青春なのだろうか。私もつい嬉しくなって知予ちゃんとハイタッチしてしまった。

「つーか、ふと思ったんだけど...なんで今頃体育祭の準備してるんだ?まだひと月も先なのに。」

1人の男子が疑問をぶつけると、みんなの感動が白けていくのが目に見えてわかる。あの時感じた違和感はこれだったようだ。急に身体がドッと重くなるのを感じる。
そして彼、灰呂くんの恐ろしさをまじまじと感じる1日となった。





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