第1χ ψ難は日常の僅かなズレに過ぎない@




私の名前は平凡仁子。

私立PK学園で現役の高校1年生をしている。
中学まではこことは違う地方で過ごしていたけれど、父の仕事の縁もあって私が高校に上がるのと同時にこの街にやって来た。

そして、私は彼...斉木楠雄くんと出会った。
会話はしたことないし、彼のことについては何も知らない。私の一方的の片想いというやつだ。
片想いと言っても特に少女漫画のように不良に絡まれたところを助けられた訳でもないし、曲がり角でばったりぶつかった訳でもない。
学校で偶然にも同じクラスになり、ただ周りと違うオーラを纏う彼に惹かれてしまったというだけ。

こんな状況だけれどそれでも私は満足している。そもそも地味で友達もさほど多くない私が、思春期と言えども彼と恋仲になりたいなんておこがましいにもほどがある!
だから、これからも遠くから彼を見続けているだけでいい。それで私の心は満たされているのだから。

そんなこんなで今日も学校へ。
教室に着いたら知予ちゃんと何を話そうかと考えているところ、前方に楠雄くんが歩いているのが目に入った。
普段は恥ずかしくて同じ時間に登校しないように少し早めに家を出ているが、普段大切にしているお守りがこんな時に限って行方不明になってしまったせい...もとい、おかげで偶然にも朝から楠雄くんと登校している!正確には楠雄くんの後ろを歩くだけなのだけれど。

運命とは言い難いけれど、朝から楠雄くんに出逢わせてくれて神様ありがとう!これもお守りの力なのかななんて...今日はいいことがありそうだ。
そんなことを考えながらぼんやりと通学路を歩いている途中、柴犬らしきが曲がり角から飛び出してくるのが見えた。

「犬...?!危な、引かれる...っ!」

犬の存在に気付いて手を伸ばしてみるも、車はもう目の前に迫っていて、私にはもうどうしようもできない。せめて衝撃的現場から目を逸らしたい一心でぎゅっと瞼を閉じる。

ドンッと衝撃的な音に身体がビクンと跳ね上がって震えが止まらない。
しかし、事故が起きたはずなのに一向に車がブレーキをかける音が聞こえて来ない。むしろ自身の横を通りすぎる音が聞こえてきた。
その違和感に恐る恐るゆっくり目を開けば、飛び出した犬は何事もなかったかのように飼い主の方へと歩いているではないか。

引かれ...なかった。なんで?
私の頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかり。

「...今、あの車飛んだ...よね...」
「..うん、...飛びましたね...」

飼い主と、その隣に立つ男性からはとんでもない言葉と乾いた笑いが聞こえてくる。

車が...飛んだ?
車が飛ぶほどの障害物はなかったのに。

うーんと頭をひねってみてもそれを解決する結果は得られず、ハッと気付いた時には楠雄くんはいなくなっていた。それと同時に遠くから学校のチャイムの音が聞こえる。

いけない、遅刻する!

今日の件に関しては一旦保留にするとして、私は全力疾走で学校へ向かった。




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