第11χ 漆黒の翼は救世主と成り得たかA




「来たか...」

頭にはフードを被り、口元もスカーフか何かで覆っていて彼の正体はよく分からない。部屋は暗幕がかけられていて部屋も薄暗く感じる。この空間の何もかも気味が悪い。早くこの招集を終わらせて帰りたい。

「金色の女神もやって来たか...君は聖杯の儀はやらなくて良いよ。なんたって聖なる女神だからね。」

聖杯の儀というのは海藤くんが先ほど舞った踊りのことだろうか。ともかく、私は用意された椅子へと腰を下ろした...何故だか翡翠の瞳に近いところに椅子があって、繰り返し言うが居心地が最悪だ。

2人とも椅子に着席すれば、翡翠の瞳と漆黒の翼は何やら話し始めた。当然、一般人である私がその話についていけるわけもなく、ぼんやりと2人の様子を眺めるだけ。思念魂やら、盟友の禊やら...中二病についていける気がしない。

「ふせろ!!ナマンズ!!イングス!!」

ひと通り話を済ませたと思ったところ、いきなり立ち上がって謎の呪文を唱え始めた。翡翠の瞳曰く、ダークリユニオンにこの場所を嗅ぎつけられたようだ。海...漆黒の翼は、結界を張るため翡翠の瞳の言うままに行動してゆく。

「結界は無事に張れたようだが、今日はもう帰ったほうがいいな。」

翡翠の瞳の言葉にほっと安堵し、入口の方に足を運ぶも強い力で腕を掴まれてしまった。

「っ...痛い。」
「漆黒の翼は結界を安定化させるのには力が強すぎる、しかし金色の女神の力は聖なる力。結界が安定するまでここにいてくれ。」

海藤くんもその言葉に納得したのか、満足げな表情で帰って行ってしまった。明日あったら文庫本の角で殴打してやるんだから。

「あーっはっはっは!!マジでバカだろアイツ!!」

海藤くんがいなくなるのを確認すると、突然フードを外して腹を抱え、笑い出す翡翠の瞳。そんな事だろうとは思ったけどね。...呆れて物も言えない。くだらない茶番に付き合う時間はもう無い。さっさと帰ってしまおう。
ドアノブに手をかけでようとしたところ、内側へ引き込まれてしまった。そうだ、腕を掴まれていたんだ。私は引かれる勢いのまま、床に仰向けにされてしまった。これはかなり危うい。

「ダメ元で設定作って誘い出してみたら本当に連れて来てくれるんだもんなぁ...本当に有能だな、漆黒の翼ちゃんは。」

ニヤニヤとしながら私の方へ歩み寄ってくる。歩に合わせて手を使い必死に後退するも、あっという間に壁際まで追い込まれてしまった。もう逃げ場はない。

「前からいいなと思ってたんだ...照橋さんには及ばないけれど君は中々綺麗な顔してるし。」

頬を撫でる手が気持ち悪い...私はこのままこの男の好き勝手にされてしまうのだろうか。こんな、最低な男に。目尻が熱くなる。悔しい、悲しい...っ。

突如、教室の電気が消え目の前が暗転する。急に暗くなったものだから、何も見えない。

「ギャァァア!!」

響き渡ったのはあの男の悲鳴。
悲鳴と同時に手を引っ張られる。私はその手が導かれるままに部屋を後にした。

気付いた時には私は下駄箱の前で立っていた。周りを見回しても誰もいない。いったい助けてくれたのだろう。
ただ、あの手の感覚は確かに私は知っている。きっと助けてくれたのは彼だろう。

「ありがとう...楠雄くん。」

翌朝、私は海藤くんを見るなり怒りのあまり教科書で何度も身体を叩いてやった。文庫本の角で叩かなかったことをありがたく思ってほしいものだ。





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