第12χ 海に入る前の準備運動は入念に@




春は足早に過ぎ去り、日差しがジリジリとアスファルトを焼いて、蝉が鳴く。
季節は夏。夏といえば海水浴。

私は海水浴場に来ている。正確に言えば私達だ。
休日だからとエアコンの効いた部屋でのんびりしていたら、燃堂くんと楠雄くんが我が家を訪ねて来て海に行こう誘ってくれたのだ。勿論、快諾した。

私は海が好きだ。
夏は人混みが億劫ではあるが、夏が来たと実感できるし、波に身を任せクラゲのようにぷかぷかと浮くのが何より好きだからだ。

海に来て早々、燃堂が楽しそうにはしゃいでいる。一方で楠雄くんはパラソルの下で安定の読書をしている。そしてもう1人、一緒に来た海藤くんは...あまり浮かない顔押している。海が苦手みたいだ。
一応泳ぐ気はあるらしい。ウェットスーツにシュノーケル、ライフジャケット、浮き輪にフィンまでフル装備だ。彼は一体どこに行きたいのだろうか。
フル装備な海藤くんは意を決したように、海に入って行ったけどすぐに溺れてしまった。まだ足首しか浸かってないのに。...そうか、海藤くんはカナヅチなんだね。知らなかったよ。

物凄い浅瀬だけれど本人は本気で溺れている。思い込みというのは怖いもので、溺れていると思うと本当に溺れて死ぬこともあるそうだ。それはいけないと助けに行こうと海藤くんの元へ駆け寄ろうとしたところ、一歩先に助けに来たのはライフセーバーのボランティアをしていた灰呂くんだった。
無意味にダイブしていたけど、救助ってそうやって行うものなのだろうか。それにしてもこんな時まで人の為に何かしようって思えることがすごいなぁと感心してしまう。真似しようとは絶対に思わないけれど。

灰呂くんに救出され、かなりぐったりとしている海藤くん。君は陸で大人しくしているといいよ。

私もそろそろ泳ごうかとパラソルから出て見れば、おぉっと謎の歓声があがる。何だろうかと声のする方を見てみれば、楠雄くん以外の3人からじっと見つめられている。

「平凡、中々セクシーじゃねーか。」
「普段は制服姿しか見ないから新鮮だな!」

海は好きだけど水着は苦手だ。
もともと肌を晒すのは好きではない。だが、海に来たからには泳ぎたい。なるべく無難な水着を選んでも人目が気になって仕方なくなってしまう。刺さるような視線に身体を隠すような仕草をすれば、逆効果らしかったようで更に視線が刺さって痛い。
そんな視線に困っていると、頭の上からふわりと何が被さってきた。白いシャツのような...もしかしてと横を向けば、楠雄くんが着ていたシャツを貸してくれた。

お言葉に甘えて着てみれば、やはり体格差があって私の身体を覆うほどに大きい。衣服からは柔軟剤の香りと微かに楠雄くんの汗の混じった香りがして、抱きしめられているんじゃないかと顔が熱くなってしまう。
恥ずかしさに今すぐ脱いでしまいたいけれど、借りたものをすぐに脱ぐわけにもいかない。しばらくお世話になろう。
前を閉じてパラソルの下に再び避難するも、「これはこれで...」と呟く男子達。...オッサンか!





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