第6χ 雨、太陽に溶ける




朝、片手に食パン咥えながら確認した天気予報。

天気予報のお姉さんは笑顔でこう予報していた。
今日は1日快晴で昼は心地よい日差しが降り注ぎ、夜は満点の星空を見ることが出来るでしょう。

それでも念のためと、傘を鞄の中に仕込んで家を出た。なんとなく降る予感が来たのだ。
本当に勘でしかないのだけれど。確率はより精度高くなったが、やはり予報は予報でしかないと私は思っている。

下校時には、ほら...やっぱり雨が降った。
土砂降りの勢いで舞い上がった土が濡れて、独特の香りが学校中に漂っている。私はこの匂いがあまり好きではない。
あたりを見回せば、天気予報を信じていた生徒達が、予報外れの土砂降りの雨にただ呆然と立ち尽くしていたり、中には鞄を頭の上に乗せて傘代わりにして帰って行く人もいた。

私は勿論、朝に傘を持って出掛けたから濡れることは決してない。
鞄から傘を取り出して広げる。お気に入りの水玉模様の傘。いつもならテンション上がるはずなのに...なぜだろうか、気分は落ち込むばかり。先日のことがあったからだろうか。

結局、君に話しかけることすらできなかった。神様の悪戯だとしても悲惨すぎる。私が一体何をしたと言うのだろうか。そんなことばかり考えてしまって、胸が詰まる度にため息だけが出てくる。
何となしに傘を広げて、もう一度校舎口の生徒を見つめてみる。

そこには周りの生徒と同じく困ったように立ち尽くす君の姿。トクンと心臓が跳ねる音がする。
一度傘を閉じて君がいる場所へ、ゆっくりと歩を進める。
それに気づ付いたのか、不思議そうに私を見つめる君の瞳。見たいのに見れない。私は俯いてゆっくりと口を開く。今度は離れていかないように、慎重に。

「あの...もし、傘なければ...私のに、入ってくれませんか?」

今、私の顔は真っ赤だろう。君からの答えは...。

「平凡さん、傘持っていたんだね。え、僕でいいなら...入っていこうかな。」

その声にハッとして、顔を上げれば太陽のような温かな笑みを浮かべている。

小さな折りたたみの傘を半分ずつ分け合いながら雨の中を歩く。触れる肩が熱くなって、雨で冷えた身体が胸の奥からじんわり温かくなっていくのがわかる。心音もどんどん早く大きくなって、こんなに苦しいのにそれが嬉しいだなんて。
いっそ、この心音と気持ちが君に届いてしまえばいいのに。そう願わずにはいられなかった。

しばらくすると分かれ道が見える。私は右側、君は左側。

「家はあと少しだからあとは走って帰るよ。平凡さんは濡れないようにそのまま帰るんだよ。」

私を気遣ってくれる言葉と変わらぬ優しい笑顔に泣いてしまいそうになる。

もうバイバイしなくてはいけないの?
もっと君と居たいのに、またねと抱きしめてくれたらなんて贅沢なことばかり考えてしまう。
私は気持ちを押し殺すように唇をきゅっと噛んで、必死に笑みを作ってみせる。

「うん、また明日。学校でね。」

君が走る姿に手を振って見送りながらも、その優しい君の背中をいつまでも見ていた。

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少し前に頼まれてやっと書き上げてみたものの最近知らされたのだが、知予ちゃんは楠雄くんではない人と付き合いだしたらしい。
ネタを書いたメモ帳の上には削除のポップアップ。
この作品は誰の目にも晒されずにお蔵入りとなるだろう。

イヤホンから聞こえてくる電子的な声色の少女の歌声が、私にはどこか悲しげに聞こえてならなかった。

メルト/初音ミク





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