第5χ Love Attack!@




「次回の進み具合はどうですか、センセッ!」

登校しまだ生徒がまばらな教室で、いつものようにお気に入りの文庫本を片手に自席で読書を楽しみながらのんびり過ごしていたところ、突然机の向かい側から前のめりになる様に顔を近づけられたことに思わず身体を引いてしまった。

「おはよう、知予ちゃん...学校で先生っていうのはちょっと。」
「あ、ごめんごめん。つい今作のがすごく良くって。」

彼女の名前は夢原知予。私と同じクラスメイトで、更に好きな人が全く同じなのだ。勿論、そのことは知予ちゃんには秘密にしている。
それはともかく彼女と知り合ったきっかけは、自作の小説である。私は趣味でネット上で小説を書いているのだが、そのネタ出しノートを知予ちゃんに見られてしまい、偶然にも知予ちゃんは私の書く小説を読んでいたようでその縁でよく話す友達になったのだ。

「本当、仁子の話を読むとキュンっとしちゃって...斉木くんとあんな関係になれたらって思っちゃうよ。」

知予ちゃんの頬は赤らみ、蕩けた瞳は楠雄くんの背中をじっと凝視している。完全恋する乙女モードになってしまっている。私としてはとても複雑なのだけれど。

「私、彼に近付きたい。応援してくれるよね?」

視線は変わって真剣な眼差しで私を見つめている。好きな人が同じではあるが大切な友達の頼みを断れるほど私も非道ではない。私は知予ちゃんの言葉に頷いて応えてみせた。

「今日は私から色々アタックしてみようと思う。仁子、うまく行くよう祈ってて!」
「うん、わかった。知予ちゃん可愛いからきっとうまく行くよ。」

彼女のいいところは友人の力を借りずに、自分から進んで向かって行くところ。その勇気は私にはないし素直に尊敬出来るところだと思う。知予ちゃんの話す作戦に耳を傾けながら、本当にうまく行ったら素直に祝福しようと心に決めた。

作戦その1、Lave Fantsy
名前は中々壮大に聞こえるが、ただの曲がり角での接触である。プリントを持った知予ちゃんが偶然にも通りがかった楠雄くんと接触し、散らばったプリントをかき集めている間に親密になると言う作戦だ。

私は邪魔をしないように教室で待機していたので、この作戦がうまく行ったかは知らない。

作戦その2、Just in Love
知予ちゃんが楠雄くんの前にうっかりハンカチを落として、それを拾ってもらうことによってお近付きになろうと言う作戦だ。

今度の舞台は教室なので私は自席から小説片手に様子を眺める。知予ちゃんが一呼吸置いてゆっくり楠雄くんの横を通る。作戦通りにハンカチを落として、あとは拾ってくれるのを待つだけ。
しかし、楠雄くんは拾う様子はなく、代わりにハンカチがひとりでに宙に浮き知予ちゃんのポケットの中に入っていったではないか。目を疑う光景である。
だが、見覚えがないわけではない。今まで見てきた超常現象の一つがここで起こったのだ。知予ちゃんも落としたはずのハンカチがポケットの中に入っていて混乱している。

いいところだと言うのに、それを遮るかの様に授業の予鈴が鳴り響く。しょんぼりと肩を落として席に戻って行く彼女の背中を見つめながら、私は先程の現象に疑問を感じつつも私は授業の支度を始めた。





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