第37χ ゴリラを狩るウサギ達A




日はもう傾いていて空が橙に染まる。
私は中庭に来ている。ここで3人が画策したあることが起きるからだ。
ここにどうやってたどり着いたかというと、ただ松崎先生を尾行しただけ。私はあの後、松崎先生の様子を見に行こうと職員室へ行き、靴箱で手紙らしきものを手に入れた松崎先生がトイレに駆け込むのを見届け、トイレから出てきた松崎先生の後をバレないように追って来たらここに来てしまったのだ。
恐らく、靴箱で手に取った手紙にここに来るよう指示されたのだろう。非常階段から3人の声も聞こえてくるし、間違いはない。

彼らの会話をしばらく聞いていると策略の全貌が見えてきた。松崎先生を呼び出しの罠に仕掛けて嘲笑うのが楽しくて仕方がないらしい。私にはそれの何が楽しいのかさっぱりわからないけれど。
先生を呼び出して仕事を妨げることが楽しいのか、ひたすらに立ち尽くす先生を見るのが楽しいのか...私は彼らの笑いのツボを理解することは一生ないだろう。それだけはわかった。

もう面倒だし、先生にこの旨を伝えてこの茶番を終わりにしてしまいたい。いや...それじゃこの場は片付いたとして何も解決はしない。これがうまくいってしまえば、3人はまた松崎先生に何かを仕掛けて腹いせをしようとするに違いない。
だから、私は何かあった時にしか先生の手助けをすることができないし、彼らが動くまでは私も動くことができないということだ。

しかし、何もせずにずっと眺めているのは流石に飽きてくる。段々空も暗くなって来た。やるならサクッとやってほしいものだけれど...まさかこの後ノープランということはないだろうか。もしそうであるのなら私はあの3人を一生許さない。

ついに3人が動き出したが、やはり何もせずに帰る模様。...仕方ない、事情を先生に話して私も帰ろう。

「...やっと来たか...」

先生が声をかけた先には見かけない可愛らしい女の子が立っていた。肌は透き通るように白く、かけた眼鏡から知的さも感じる。

私は混乱した。あんな綺麗な人がうちの学校にいただろうか。少なからず同学年にはいないことは体育祭でわかっている。ならば、ひとつ下かひとつ上だろうか。どちらにしてもあの雰囲気なら目に留めるくらいは絶対にする。なのに、見たことはないと断言できてしまうこの気持ち悪さは一体なんだろう。

「手紙をくれたのはお前か?」

その少女はコクリと頷く。
あれは確か悪戯の手紙だったと思うのだけれど...だって、植木に隠れて見ている3人が驚いているのだから。だとしたらなぜ彼女は3人をかばうような真似をするのか。まったくわからない。

「悪いがお前の気持ちには応えられない。俺は教師でお前は生徒だ。それを言うために待っていた。」

先生は生徒には厳しくしているけれど、それは生徒のことを思って動いた結果であって、今だって自分のことより生徒のことを考えてずっと待っていた。今の時代こんな先生はあまり多くないだろう。先生は誰よりも先生らしい。

そんな先生に感動していたら、隠れていた3人は見つかって松崎先生に怒られている。当然の報いだ。この際、みっちり怒られると良い。
先生の怒りもそこそこに差し出された手の中にあったのは没収されたはずのゴリラビット。没収したのは良いが首が取れてしまって一生懸命直していたとのこと。先生の気持ちと真っ直ぐさが伝わったようで高橋くん達は頭を下げて帰って行った。

無事に解決してよかった。私もそろそろ帰らなきゃ。あの女の子はどこへ行ったのだろう。暗いから一緒に帰ろうと思ったのだけれど。
なんとなく雰囲気が楠雄くんに似ていたような気がしたけど、流石にそれはないだろう。
また...どこかで会えたらいいな。





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