「……オリアーナ」
「何、シグナス」
スリザリンの談話室で分厚い本を読んでいると、隣にシグナスが座ってきた。彼はオリアーナを見つめ、声を潜めて言った。
「……いつ、あの"トム・リドル"と仲良くなったんだ?」
「リドル先輩? ……なぜそんなことを聞くの?」
オリアーナは怪訝そうな顔でシグナスを見つめ返した。シグナスは少しだけ視線を逸らすと、また戻した。
「……最近、お前リドルと一緒にいるだろう。だから……」
二人が付き合ってるんじゃないか、って。
「……ヴァル兄さんなんて、噂を気にして寝込んじゃったし」
「ハッ馬鹿が」
鼻で笑い辛辣な言葉を口にすれば、シグナスは困ったような顔をしていた。
「……いや、婚約者なんだから少しくらい心配してやれよ」
「私、婚約者ではあるけど、結婚するつもりはない」
しれっと、何事もなかったかのように言って再び本に視線を落としたオリアーナに対しシグナスは口をぽかんと開けていた。
「……は、……はぁ?」
「ヴァルには悪いけど。この婚約だって親同士が勝手に決めたことだし。跡取りって言われても私にそのつもりはない」
ざっくりと言い切ってみせると、少し離れたところでバタッと何かが倒れる音がした。
「おーい、ヴァルブルガが倒れたぞー」
「あら、ヴァルなら放っておいても平気よ」
「ルクレティアさんが言うんなら大丈夫なんだろう」
「…………ま、まぁ、兄さんはいいとして。本当に、トム・リドルとはどうなんだ」
さっさと答えろとばかりにシグナスがオリアーナにぐいっと顔を近づけた。
「僕がなんだい?」
背後から聞こえた声に二人は同時に振り返った。
「!」
「リドル先輩」
オリアーナの真後ろには噂のリドルが立っていた。リドルはオリアーナの体をシグナスから離すように少し引く。シグナスは引き攣った笑みを浮かべた。
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bkm