「母上!」
誰だ。私をそう呼んだのは。私に子供などまだいない。結婚すらしてない。
「ははうえ!」
「どうした? シリウス、レギュラス」
目の前には幼い少年が二人。私と同じ灰色の目で私を見上げている。私は二人に微笑んでみせた。全く知らない少年なのに、 どうしてこんなにも愛しく思えるのだろうか。
「はい! これ!」
「母上にあげる!」
彼らは私に小さな小さな一輪の花をくれた。赤い色の花だ。
「可愛らしい花だな……」
可愛すぎて、私とは釣り合わない。でも、良い色だ。愛おしくてたまらない。
「へへっ」
「あにうえとつんできたんだ!」
歯を出して笑う少年と目を輝かせる少年。どこで摘んできたとか、どの花にしようか迷ったとか。楽しそうに話す二人に思わず笑みがこぼれる。でも……。
「今は家庭教師と勉強をしている時間じゃなかったか?」
そのままの笑顔で、声のトーンだけ下げてみた。
「うっ……」
「あにうえ?」
シリウスは冷や汗を流しながら目を泳がす。レギュラスはそんな兄に首を傾げた。その様子では、家庭教師から逃げたのだとすぐにわかった。
「ハァ……仕方ない。……偶には息抜きが必要だろう」
ぱぁっと顔を輝かせてオリアーナに抱きつくシリウス。さらにそれを真似してレギュラスもオリアーナに抱きついた。二人を腕の中に抱えるながら、今月の予定を脳内に巡らせる。
「今度、どこかへ出かけようか」
「本当!? いつ!?」
「いつ!?」
「そうだな……。今週の日曜日はどうだ?」
確かその人は仕事も休みで、他の予定もなかったはずだ。
「わかった! やったなレギュ!」
「うんっあにうえ!」
「それじゃあ、それまでにちゃんと課題を終わらせるんだ。家庭教師から逃げるのもだめだぞ。もし逃げたりしたら、日曜日の約束は取り消しだよ」
「「はーいっ」」
二人は心得た、と大きく頷くと手を繋いで走っていった。その姿を見送った後、手の中の一輪の花に目を落とす。
子供も、悪いものではないな。
そのとき、スッと花が奪われた。
「あ……」
奪われた方に手を伸ばせば、すぐ隣に人が立っていた。視線を上に滑らせていけば、赤色がこちらを見つめていた。
「あいつらはお前にべったりだな」
「……はい。でも、……うれしいことです。我が子に愛される事は……」
さらりと髪を梳かれ、耳元に花を飾られる。
「……僕の方がお前を愛しているがな……。お前はどうだ?」
「そんな質問……」
狡いです。
近づいてくる赤い瞳をしばらく見つめたあと、……ゆっくりと瞼を閉じた。
・・・・・・
・・・・
・・
がたがた……っ
ふかふかのベッドから転がり落ちた。
「……」
なんつー夢を見ているんだ私は。
静かに頭を抱える私の姿は同室のアイリーンしか知らない。
星と夢。夢落ち。
2017/06/29