「オリアーナ。お願いだからもう少し食べなさい」
「いくら、アイリーンのお願いでも嫌」
朝は食欲が沸かない。ジュース一杯でオッケー。
食べている時間すら勿体無い。どうせなら、この時間も夢の中に旅立ちたいくらいだ。
「だから、少しだけでもいいから。パン一つ」
「嫌なものは嫌」
隣に座る私の友人はまるで世話焼きの母親のようだ。
アイリーン・プリンス。さらさらの黒い髪と黒曜石のような瞳でじっと私を睨んでいる。ああ、世話焼きの母親はこんな睨んでくることはないかもね。だが、私の母親はこんなに世話を焼いてくれないから、こういった友人は貴重だと思ってみたりする。
「……オリアーナ、食べるべきだ」
「シグナスに言われても嫌だ」
反対隣から声をかけてきたのは、再従兄弟(はとこ)のシグナス・ブラックだ。
「じゃあ俺が言ったら食うのか?」
「いや、僕だろう」
「お前たちは論外だ。アルファード、アブラクサス」
いつの間に現れたのか、まるで害虫だなと内心で舌打ちと罵声を浴びせる。
「兄さん、アブラクサス先輩……」
この馬鹿共が、血縁者であることや年上であるとかすごく認めたくない。アルファードはシグナスの兄で、アブラスサス・マルフォイは純血の名家出身だ。
「オリアーナ」
「……ヴァルブルガ」
馬鹿共のさらに後ろから姿を現したのはシグナス、アルファードの兄であるヴァルブルガ。
そして彼は、――私の婚約者だ。純血主義の思想の下、親戚同士の婚姻はブラック家では当たり前のことであった。だから、私が生まれてすぐ、私の意志とは関係なくヴァルブルガとの婚約が決まった。
彼はニコリと笑みを浮かべながら、私の頬に手を当てた。
「私が食べさせてあげたら食べるかい?」
「無理、拒否」
にこにこ笑いながらフォークを近づけてくるな。ぐっと顔を引いて、フォークから逃げていると突然両肩を抑えられた。
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bkm