私に、君に、幸あれ。
 キャンプに最適といえる程の快晴。青い空が延々と広がり、憎たらしくも太陽が眩しく輝いていた。
 若葉はテントを並べ立てたキャンプ場から離れ、木陰となっている木々の間をゆっくりと歩いていた。時折、足を止めては木に触れたり、土をいじったり。別にその行動事体には何の意味もないのだ。そう、なんとなく。なんとなく木に触れ、土をいじっていた。
 いつも眠たそうに垂れた薄紫色の眼は瞼に隠されたり、現れたりしている。口数が少なく、不思議な雰囲気を醸し出す若葉は同級生の間でも浮いた存在だった。

 ぼう、と木に寄りかかって地面を眺めていると、突然辺の空気がひやりと冷たいものへ変わっていった。

「……」

 下がっていた視線を今度は上へ。そして、眼を輝かせた。

「ああ……雪」

 あと数ヶ月先まで見ることはないと思っていたものが、はらはらと落ちてくる。少しすると降っていた雪の量と風の勢いが急激に増し、吹雪になった。

「おいっ! 若葉なにやってんだ!」

 吹雪の中、ただ立ち尽くしていた若葉の手がきつく握られる。

「太一さん……」
「まったくお前ってやつは……。とにかく、雪が凌げるとこに移動すんぞ!」

 若葉の手を握ったのは、同じ小学校に在籍する二学年上の八神太一だった。若干引きずられるようにして走り、石段を駆け上がった先には小さな祠。そこには同じように、子どもたちが駆け込んでいっていた。

「太一!」
「空っ!」

 これまた、二学年上の武之内空。

「若葉ちゃん! 良かった!」

 太一と若葉が祠の中に入ったのを確認すると空は、寒さと吹き込む雪を避けるため、戸を閉めた。

「はあ〜、寒ぃな」

 太一は大きく溜息をついた。空はぼう、と立ち尽くしている若葉の服に乗る雪を払い落としてくれた。その間、若葉の重い眼は祠の中にいた人たちを見回す。自分を除き、祠の中に居たのは七人。知ってる人は太一と空しかいなかった。

「ほら、若葉ちゃん。こっちに座って」

 空に手を引かれて、部屋の角に導かれる。体温で溶けてしまった雪が、服を冷たく濡らしていた。


・・・・・・
・・・・
・・


「やっと止んだみたいだな」

 太一が祠の戸を開けて言った。

「きゃははっ雪だぁ! すごぉーい!!」
「おいタケル気をつけろ!」

 無邪気に外へ飛び出していくタケルと呼ばれた一番幼い男の子と、タケルを追いかけていく男の子。

「ふぅ〜寒いわね……夏とは思えない」

 空は肩を抱きながら外へ出て行く。続いて若葉も外に出た。

「♪」

 深く積もった冷たい雪に足を沈めながらも、軽い足取りで進んでいく。

「早く大人が居るところへ戻ろう。ここにいつまでもいると……」
「キャァー! 綺麗!」

 メガネをかけた男の子とテンガロンハットを被った女の子も続いて祠から出る。
 一方、祠の中では男の子がノートパソコンの液晶を見つめ、溜息をついた。

「駄目か……。吹雪が止んだら電波届くと思ったんだけどなぁ」
2017/08/01


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